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2024年度 台湾Travelling Fellowship参加記

更新日 2024.11.19

H26卒
平沢累

2024年11月4日~15日に台湾の国立台湾大学醫学院付設醫院(National Taiwan University Hospital;NTUH)および林口長庚紀念醫院(Chang Gung Memorial Hospital, Linkou;CGMH Linkou)で研修して参りましたので報告致します。この千葉大学整形外科と両病院との交換留学は葉國璽先生(H5)、葉佐俊先生(H25)らの 御尽力により, 本年で5回目となります。この場を借りて厚く御礼を申し上げます。

 

11月4日〜8日はNTUHで人工関節手術(THAやTKA)を中心に見学しました。NTUHは約2,000床の大きな病院で、整形外科は7つの手術室を有し、月〜土曜日の週6日体制で手術を行なっています。

台湾は日本の医療保険制度とは異なり、人工股関節手術において、公的保険とは別に自費でMetal HeadをCeramic Headにしたり、ポリエチレンライナーをセラミックライナーにしたりすることができます。裕福な人はより高度な医療を受けられるという点が日本とは異なると感じました。近年、流行っているナビゲーションやロボット支援下の人工関節手術は台湾ではほとんど行われておらず、これは自費だとあまりに高額であり患者さんは選択されないとのことです。NTUHではTHAは術後5日、TKAは術後7日と早期に退院しており、これはERAS(Enhanced Recovery After Surgery)プログラムを導入し、術後の早期回復に力を入れているためであると人工関節チームのChen-Ti Wang教授に詳しく教えていただきました。

台湾の医療現場で特筆すべきは、看護師の多様なサブスペシャリティです。病棟専従看護師(創部管理、他科コンサルに対応など)、麻酔専従看護師(術中麻酔管理)、整形専従看護師(オペの助手)などがおり、医師の業務負担を大きく軽減しています。特に、麻酔管理において、麻酔科医は手術の導入と覚醒時のみ関与し、それ以外の循環呼吸管理は麻酔専従看護師が担当する体制が印象的でした。

台湾では年間約1000人が医師になるそうですが、各科の専門医数は政府により厳密に管理されています。整形外科は特に人気が高く、年間30-40人程度しか専門医になれない狭き門となっています。また、各施設にレジデントの受け入れ制限があり、台湾大学では年間3-4人の整形外科レジデントの受け入れに制限されているそうです。倍率が高く、優秀な人材が集まる一方で、医師不足が問題となっており、レジデントは毎日非常に忙しそうでした。そういった医師の働きをサポートするために各種の専従看護師は必要不可欠なのだろうと感じました。

NTUHの整形外科では、臨床業務に加えて研究活動も活発に行われています。毎朝の症例検討会や研究発表では、特に骨粗鬆症研究において多職種連携によるRCTの実施など、質の高い研究成果が多数報告されていました。何人もの若手の教官の先生がハイインパクトジャーナルにアクセプトされており、非常に刺激を受けました。

NTUHの1週間はJoint fellowのDr. I-Hsin Chenに何から何まで大変お世話になりました。年齢が近かったこともあり、立ち飲み屋に連れて行っていただき、仕事のことやプライベートなことなど色々と話ができて大変有意義でした。最終日には、関節チームのChen-Ti Wang教授に送別会を開いていただき、Revision THAについての貴重な経験談を伺う機会も得られ、大変有意義な研修となりました。

  • 台湾大学
  • Chen-Ti Wang教授(前列右)らと会食

11月11日〜15日はCGMH Linkouに移動し、人工関節置換術後の感染症例や反復性脱臼などの難治症例に対するRevision手術を多く見学しました。CGMH Linkouは約4,000床 の巨大総合病院で、約120室の手術室を備えています。整形外科単科で約200床を保有し、関節再建チームは年間4,000件を超える股関節・膝関節の初回および再置換術を実施しています。Revisionとなる症例のほとんどは近隣の病院で対応できず紹介されてくるそうで、地域の最後の砦として多くの難治症例を扱っていました。

人工関節のRevision手術は一般的に高度な技術を要しますが、CGMH Linkouの先生たちは豊富な経験を有しており、カップとステムの抜去から再置換までを約90分で終えていたのには驚きました。台湾におけるRevisionの特徴として骨セメントを使用せず、同種骨移植を併用したセメントレス手術が基本となっています。セメントガンが流通していないようで、セメントステムを行うことができないという点も日本と異なると思いました。1人1人の手技のレベルが高く、毎日17時には必ず終わり帰宅されているのが印象的でした。CGMH LinkouではPJIに対しては基本的に2期的再置換を行なっており、1期目の抗菌薬含有セメントスペーサーの作成は非常に手際がよく、勉強になりました。最近、日本で流行っているCLAPのことを話すとTOAで聞いたことがあると非常に興味を持たれておりました。また、THAのアプローチは側臥位のAnterolateral approachでした。台湾では後方アプローチや側方アプローチが主流とのことで、千葉大学のTraction DAAについて紹介させてもらったところ、DAAに大変興味を持たれていました。

CGMH Linkouの関節再建チームは主任であるChih-Chien Hu教授を筆頭に4名の教授、3名の准教授、4名の助教授で構成されるチームで多くの手術をこなしている傍ら、JBJSやCORRなどのハイインパクトジャーナルに研究成果を発表しています。また、マウスを使った基礎研究も近くの大学で行っているそうで、そのアクティブな姿勢に大変驚きました。

病院経営の面では興味深い特徴がありました。CGMH Linkouは過去6年間、台湾国内で収益第1位を維持していますが、医療業務自体はやや赤字となっています。収益の柱となっているのは、保有株式や地下の巨大なフードコート、駐車場収入など、医療外の収入とのことです。他の多くの病院 (台湾大学含む)も黒字経営のところが多く、同様に医療以外の収入源が大きな柱であるとのことでした。

  • Chih-Chien Hu教授(右端)、葉佐俊先生(中央)とお茶
  • 関節再建チームと

今回の研修では、ちょうど葉佐俊先生(H25)がCGMH Linkouに留学されており、多くのサポートをしていただき大変お世話になりました。この場を借りて感謝申し上げます。また、週末には脊椎班でフェローとしてCGMH Linkouにいらっしゃった古矢丈雄先生(H13)と葉佐俊先生ご家族とお会いすることができ、良い思い出となりました。

私自身、医師になってから海外の病院での研修は初めての経験でした。今回台湾大学とCGMH Linkouに行かせていただき、医療を取り巻く環境が大きく異なること、多くの優秀な医師に出会ったことで、私自身少し視野を広げることができたのではないかと感じます。今回の貴重な出会いを大切にして、将来何か国際的な共同研究などができれば面白いだろうなと感じます。

最後になりますが、このような大変貴重な機会を与えて下さりました葉國璽先生、葉佐俊先生、大鳥精司教授、また留守中大変お世話になりました大学の文部教官の先生方、リウマチ股関節グループの中村先生、萩原先生、瓦井先生、また病棟業務などでお世話になりました大学院の先生方とフレッシュマンの先生方に心より御礼申し上げます。

チャングン記念病院林口 (台北、台湾)訪問記

H13卒

古矢丈雄 

 

 2024年11月3日~10日の日程で台湾最大の病床数を誇るチャングン記念病院林口分院を訪問する機会をいただきましたので報告します。2017年より錦昌会理事長葉國璽先生の仲介の下、台湾大学病院、チャングン記念病院、三軍記念病院の脊椎外科医・関節外科医と当院整形外科医師の人事交流が続いております。本年は8年ぶりに訪問の機会をいただき、チャングン記念病院林口分院にて手術、臨床業務に加え、現地の医療制度・若手医師教育体制・ワークライフバランス等を視察して参りました。

 チャングン記念病院林口分院はチャングングループの中心的な病院です。病床数3700を誇り、脊椎外科は週に70件ほどの手術を10名のスタッフで執り行っておりました。入院加療については保険診療、日本のDPCのような制度が導入されており、特に定型疾患・定型手術では厳しく病院が請求できる医療費の上限が決まっております。材料費についてもその範囲内での請求が定められており、患者がロボット手術など最新の医療機器、最新のインプラントの使用を希望する場合は自費診療または担当医が学会に利用歎願書を書いて受理されれば請求可能というシステムを取っています。保険のカバー制限内ですと、1-2椎間の頚椎前方除圧固定術は1泊入院が基本、腰椎の後方椎体間固定も術後3日くらいで退院となります。手術を終えて状態が落ち着いたらすぐに退院というのは米国の医療に近いと感じました。

 診療システムも米国式で、各スタッフ (教授)が各々の外来枠を持ち、手術枠をもっております。教育体制は各スタッフ (教授)がフェローを受け入れ、彼らに診療業務を通じ教育を行っており、フェローがレジデントを教えておりました。手術はチーム医療で、スタッフとフェロー、レジデントのチームで手際よく対応しておりました。1名の執刀医は1日5-8件ほどの脊椎手術を時に並列や3列でレジデント、フェローのサポートの下、手際よく進めておりました。手術の内容は6-7割が腰椎変性疾患で、残りは頚胸椎変性疾患、化膿性疾患、転移性脊椎腫瘍、外傷(骨粗鬆症性椎体骨折を含む)でした。脊椎は腰椎椎体間固定と椎体骨折のセメント充填手術が全盛で、各術者がそれぞれの工夫で短時間に確実に行う術式を確立しておりました。現在のトレンドはシングルポジションでの前後合併手術です。腰椎変性疾患を基本に、転移性脊椎腫瘍の腫瘍骨脊椎全摘術などにも応用しておりました。

 

 給与は歩合制で、外来や手術件数に応じ昇給する仕組みでした。個々の医師はスタッフからレジデントまで業務をやればやるほど給与にも反映するので皆活力に満ちておりました。 ただ、若干手術を詰め込みすぎであり、疲労感はありました。手術室および病棟業務の看護師へのタスクシフトは日本よりも進んでいる印象でした。特に病棟業務は各スタッフに専属のフィジシャンアシスタント看護師がおり、患者の術後管理などに大変な力を発揮しており、外科医が手術に集中できる体制が整備されておりました。医師のタスクシフトは進んでいるものの、そもそもの業務量が多いので医師は疲弊しているというのが現状でしょうか。

 

 毎日忙しい中、夜は積極的に会食の機会を作っていただき交流を深めることができました。また、週1回の脊椎カンファレンスにてプレゼンテーションの機会をいただき、日本の多施設共同研究や長期フォローアップデータの重要性、学会合同開催 (Spine Week Japan)などについて発表させていただきました。

 

 違った国の医療事情を見聞することで、日本の医療の長所・短所について多角的視野をもって洞察する力をつけることができると思います。ぜひ若い先生にも積極的に海外研修、海外留学に出かけてほしいと思います。

  • 蔡宗廷教授 (中央)らと会食
  • 賴伯亮教授 (左端)らと会食
  • 骨科部傅再生部長 (左)と
  • 脊椎班と