令和7年度教室例会開催のご報告

更新日 2025.12.20

千葉大学大学院医学研究院整形外科学
平沢 累

令和7年12月

令和7年度教室例会開催のご報告

 

同門会会員各位

 

拝啓

師走の候、先生方におかれましてはますます御健勝のことと御慶び申し上げます。

このたび、教室例会が盛会のうちに終了いたしましたことをご報告申し上げます。本年は全107演題のご発表があり、多岐にわたる最新の研究成果や貴重な症例報告が行われ、実り多い会となりました。多くの同門の先生方にご参加いただき、活発かつ建設的なご討議を通じて充実した学術交流の場となりましたことを、厚く御礼申し上げます。

また、忘年会におきましては多くの先生方にご参集いただき、和やかな雰囲気の中で有意義な情報交換の機会となりました。

なお、本年度の千整会奨励賞およびAward受賞の先生方より、受賞の声を頂きましたので、ここにご報告申し上げます。

来年度の教室例会は2026年12月18日(金)、19日(土)の開催を予定しております。来年度も数多くのご発表を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。

 

敬具

 

各受賞者

2025年度千整会奨励賞(論文部門)

基礎部門:北川恭太先生(平成29年卒)

「Development of a machine learning model and a web application for predicting neurological outcome at hospital discharge in spinal cord injury patients」

この度は、第10回千整会奨励賞(基礎部門)という栄誉ある賞を賜り、誠に光栄に存じます。選考委員の先生方、ならびに関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。

受賞対象となった論文は、The Spine Journalに掲載された「Development of a machine learning model and a web application for predicting neurological outcome at hospital discharge in spinal cord injury patients」です。本研究は、日本リハビリテーションデータベースのビッグデータを用い、脊髄損傷患者の退院時機能予後を高精度に予測する機械学習モデルを開発し、さらにその成果を誰でも使用できるようWebアプリケーションとして実装・公開したものです。(http://3.138.174.54:8502/)

本研究は私にとって、研究者としての視座を大きく広げてくれた大変思い入れの深いものです。本論文での成果は、CSRS-AP 2024におけるBest Oral Presentation 2nd Prizeの受賞や、北米CSRSでのOral Presentationの機会をいただくなど、国内外を通じて多くの学術的評価を頂戴することができました。

研究の遂行にあたり、着想から論文完成に至るまで終始大変厚いご指導を賜りました牧聡先生に心より感謝申し上げます。また、古矢丈雄先生をはじめ、多大なるご助言とサポートをいただいた頚椎班の諸先生方に深く御礼申し上げます。

今回の受賞を励みに、今後もよい発表が続けていけるよう、より一層精進してまいる所存です。

 

 

 

臨床部門:岩崎龍太郎先生(平成27年卒)

「Age-Related Changes in Bone Mineral Density of the Scaphoid and Distal Radius: A Quantitative Computed Tomography Study」

この度、多くの先生方のご指導・ご協力を賜り、千整会奨励賞臨床部門に選出いただきましたことをご報告申し上げます。

本研究では、日常診療の中で抱いた疑問を出発点として、quantitative CTを用いて舟状骨および橈骨遠位端部の骨密度の年齢依存性を評価しました。受傷機転が類似するにもかかわらず好発年齢や性差が大きく異なる両骨折の疫学的差異に着目し検討した結果、橈骨遠位端部では加齢に伴う骨密度低下が顕著である一方、舟状骨ではその変化が比較的軽微であることが明らかとなりました。さらに部位別・組織別解析からは、特に海綿骨の骨密度変化が両骨折の発生様式の違いに関与している可能性が示唆されました。

12年前に当時大学院生であった松浦佑介先生にご指導いただき奨励賞を受賞して以来、時を経て自身が大学院生となり、再び松浦先生のご指導のもとで本賞をいただくことができたことは、大変感慨深く感じております。また、山崎貴弘先生にも学生時代より長きにわたりご指導いただいており、このようなご縁の中で再び同じ研究に携わり、今回の受賞を迎えられたことを心より嬉しく思っております。

研究が思うように進められない時期もありましたが、千葉大学整形外科、特に手の外科の先生方に温かく支えていただいた中で迎えた今回の受賞は、より一層嬉しいものとなりました。これまでご指導・ご支援いただいたすべての先生方に深く感謝申し上げます。臨床上の疑問を大切にし、客観的に検証しようとする姿勢を、今後は臨床の現場においても生かせるよう、より一層精進してまいります。

 

千整会Award(発表部門)

基礎部門:水谷雅哉先生(平成31年卒)

「多系統不老化iPS細胞を用いた骨再生」

この度は、例会Award基礎部門という名誉ある賞を賜り、大変光栄に存じます。

令和3年度入局の水谷雅哉と申します。

本研究は、イノベーション再生医学教室との共同研究として行われたものです。

私は現在、当研究室が保有する不老化iPS由来細胞を用いた骨再生プロジェクトに従事しております。本研究では、その中でも多系統のiPS由来細胞を用いた骨再生をテーマとして取り組みました。

一般に骨再生に用いられる細胞としては、間葉系間質細胞(MSC)が広く知られております。当研究室においても不老化したMSCを保有しており、同じく整形外科所属の田代先生が、その細胞を用いた骨再生の有用性を示してくださいました。

一方で、実際の骨再生の過程には、MSCのみならず、血管新生や免疫応答など、複数の細胞が関与しています。そこで私は、不老化したMSCに加え、当研究室で保有している不老化血管内皮細胞(VEC)およびマクロファージ(Mφ)を用いることで、より強力な骨再生を目指すことを目的として本研究を開始いたしました。

その結果、MSCとVECの共培養は、遺伝子発現(qPCR)、カルシウム沈着(Alizarin Red染色)、さらにin vivoでの骨形成といったすべての評価項目において、MSC単独を上回る結果を示しました。

本研究により、MSCとVECの共培養が骨再生に有用である可能性が示されたと考えております。

最後に、初めての基礎研究で右も左も分からない中、熱心にご指導いただきましたイノベーション再生医学准教授の高山先生、向井先生、ならびに in vitro・in vivo の両面で本研究に用いたモデルや評価手法を確立し、丁寧にご指導いただいた田代先生に、この場を借りて心より御礼申し上げます。

今後ともご指導、ご鞭撻を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。

 

 

臨床部門:山田裕介先生(令和3年卒)

「小児脛骨遠位端骨折における固定法と治療成績の検討」

この度は、千葉医学会整形外科例会の臨床部門Awardを受賞することができ大変光栄に存じます。

今回の発表は、小児脛骨遠位骨幹部、いわゆるDistal Tibial Diaphyseal Metaphyseal Junction(DTDMJ)での骨折における固定方法と治療成績を検討した発表でした。DTDMJは脛腓骨成長板を一辺とした正方形に囲まれた領域であり、解剖学的特徴として髄腔が広く、皮質骨も薄いため強固な固定が困難とされています。

本研究では当院における20年間の小児脛骨骨幹部骨折症例16例をDTDMJ群と非DTDMJに分類し、術後矯正損失を比較しました。また、DTDMJ群のうち、固定に用いたインプラント種別が単一である単独インプラント固定群、複数である複数インプラント固定群に分類し術後強制損失を比較しました。

結果として、DTDMJ群では内外反での強制損失が生じやすいこと、DTDMJ群のうち単独インプラント固定群では内外反、伸展屈曲ともに矯正損失が生じやすいことが示されました。

小児骨折治療では、自家矯正能力の高さから多少の矯正損失が許容される傾向にありますが、本研究からDTDMJでは矯正損失が生じやすく、DTDMJでは自家矯正能が低いことが示されていることからも、DTDMJにおける矯正損失の許容は変形遺残のリスクとなります。また、仮に自家矯正の範囲内であったとしても、有限要素解析では2-3°のMalalignmentが半月板や軟骨への負荷を増大させることが示されていることからも、自家矯正過程での関節負荷は無視できないといえます。以上のことから、DTDMJに対する固定方法は矯正損失による関節負荷や変形遺残を防ぐためにも複数インプラントでの固定を行うべきであるという結論が得られました。

今回、重症緊急の合間を縫いながら、熱心にご指導いただいた松山善之先生をはじめとして、様々なご意見やご指導をいただいた都立墨東病院救命救急センター整形外科の先生方にこの場をお借りしまして心より感謝申し上げます。

また、このような貴重な機会をくださった大鳥精司教授、同門の先生方に心から感謝申し上げます。

これからも自身が経験した症例から得たclinical questionを疑問の形に止めるのではなく、一つ一つの症例と向き合いながら新たな知見が得られるよう日々一層努力を重ねてまいります。

今後とも何卒ご指導ご鞭撻をよろしくお願い申し上げます。

 

 

若手部門:平島哲矢先生(令和4年卒)

「当院におけるPA(Physician Assistant)の活動」

この度は,千葉医学会整形外科例会の若手部門Awardを受賞することができ,大変光栄に存じます.

今回の発表は「当院でのPA(Physician Assistant)の活動」と題し,少数医師体制で地域医療を担う当院整形外科におけるPA導入の背景,業務内容,導入効果,今後の課題について報告したものです.

当院は二次救急指定病院として地域医療を支える一方,常勤整形外科医は1〜3名で年間600件を超える手術を担っており,働き方改革も相まって日中業務が高度集中しやすい状況です.そこで当院では,限られた整形外科医数でも診療体制を維持・発展させるため,医師の監督下で診察,処置,手術助手等を担うPA制度を2020年度より導入しました.

当院PAは病棟・外来・手術室の各場面で活躍しており,外固定作成,創部処置,処方・検査の代行入力,退院調整や他職種連携の窓口,初診患者の予診や救急対応,さらには術前準備(同意書準備,手術室・麻酔科との日程調整,インプラント手配)から手術助手まで担っております. PA導入により,医師の働き方改革の推進のみならず,チーム医療の円滑化やダブルチェック機構としての医療安全向上など,質的な改善も得られつつある一方で,職種としての公的位置付け,教育体制の標準化,社会的認知度の低さといった課題も明確となりました.本発表が,同様の課題を抱える医療機関における診療体制整備や日常診療の一助となれば幸甚であり,医師の働き方改革を進める上で,PAはタスクシフト先として現実的な選択肢の一つとなりうることを,今後も院内外に発信していきたいと考えております.

本発表に際してご指導賜りました安房地域医療センターの先生方やPAの皆様,ならびにPA活動を支えてくださっている関係スタッフの皆様へ,この場を借りて厚くご御礼申し上げます.また,このような貴重な機会をくださいました大鳥精司教授をはじめ,同門の先生方にも心から感謝申し上げます.

今回の受賞を励みに,より一層精進して参りますので,今後ともご指導ご鞭撻のほど,よろしくお願い申し上げます.

 

千葉大学大学院医学研究院整形外科学

 教授 大鳥 精司

医局長 稲毛 一秀

事務担当代表 平沢  累

例会担当 中根 涼、河野 健太

  • 水谷雅哉先生の代理で向井務晃先生(平成21年卒)が代理で受賞(右から2番目)