台湾短期トラベリングフェローシップ参加記
更新日 2025.11.28
今回、台湾の国立台湾大学醫学院付設醫院(NTUH)及び林口長庚紀念醫院(CGMH Linkou)で2025年11月3日から14日にかけて研修に参加いたしました。 この交流は千葉大学整形外科と両病院との交換留学の一環であり、葉國璽先生や葉佐俊先生ら医療法人錦昌会のご尽力により今年で6回目となりました。ここに深く感謝申し上げます。
第1週の11月3日から7日はNTUHで研修を行いました。NTUHは約2,000床を有する大病院で、整形外科は曜日に関係なく多様な手術を週6日体制で行っていました。手術室や器械の違いはもちろん、手指消毒の方法や滅菌ガウンの扱いなど、現地で実際に見て初めて分かる医療文化の差を実感しました。台湾の保険制度は日本と異なり、人工関節手術のインプラントも患者の経済状況に応じて選択肢が異なります。高性能なセラミックヘッドやクロスリンクポリエチレンライナーは自費扱いであり、支払えなければ前世代のインプラントしか使用できません。ナビゲーションやロボット支援手術も存在しますが高額で患者からの希望は少ないとのことでした。麻酔や手術助手の専門資格を持つ看護師がおり、術中の麻酔管理や閉創を担当する体制が整っている点も印象的でした。執刀医は重要なパートを終えると閉創や患者退室までの管理を別の医師に任せて次の手術に向かう動きが見られました。限られた人員で
関節班のChen-Ti Wang教授には過去のリビジョン症例を示していただき、豊富な知識と経験から多くの指導を受けました。軟部組織温存に注力し、侵襲の少ない手術を目指しているため、症例によってはTHA後翌日退院(Day Surgery)も可能とのお話でした。
NTUHでは脊椎のDr. Chun-Chieh Wangにも大変お世話になり、休日には水谷先生とともに観光にも連れて行っていただきました。台湾の医療事情や医師のワークライフバランスについて語り合い、親睦を深める貴重な機会となりました。
第2週はCGMH Linkouで多くの手術を見学しました。約3,700床を擁する巨大病院で、単一病院として台湾最大の規模を誇ります。連携病院を含めたグループ全体では1万床を超え、世界最大級の医療体制です。整形外科では週90件に迫る人工関節手術が行われ、その約1割がリビジョン症例という特徴がありました。近隣病院からの難治症例が常に紹介されており、高度な手術技術を求められています。同種骨移植を併用したセメントレス手術が基本で、抗菌セメントスペーサーを用いた二期的再置換が行われている点など、日本と異なる手法も学べました。手術の手際の良さや時間の短さには感銘を受けました。また、術者の技量だけでなく助手との連携や器械出し看護師との連携も非常にスムーズで流れるようにオペが進んでいく様が印象的でした。数多くの手術件数をこなす秘訣の一つは各業種間の連携の良さにあるのかもしれません。滞在中は葉佐俊先生やChih-Chien Hu教授のご支援もあり、充実した研修となりました。
両病院のフェローや教授の先生方には連日素晴らしいおもてなしの食事に招かれ、台湾のホスピタリティの高さを実感しました。台湾では基本的に台湾華語で会話されますが、医療用語は多くが英語で行われ、参加したカンファレンスも英語でした。多国籍の留学医も多く、今回の研修ではフィリピンやヨルダンからの医師とも交流でき、国際的な視野の広さを感じました。
今回の研修を通して台湾の医療環境と高度な臨床・研究現場を体験し、自身の国際感覚も広がったと実感しています。語学面で当初は不安もありましたが、多くの貴重な経験ができ非常に有意義な研修となりました。
最後に、本研修を実現してくださった葉國璽先生、葉佐俊先生、大鳥精司教授、また留守中大変お世話になりました大学の文部教官の先生方、リウマチ股関節グループの中村先生、萩原先生、瓦井先生、また病棟業務などでお世話になりました大学院の先生方とフレッシュマンの先生方ほかすべての関係者の方々に心より感謝申し上げます。
2025年度 台湾 Travelling Fellowship 参加記 (平成31年卒 水谷 雅哉)
このたび、台湾の国立台湾大学病院(National Taiwan University Hospital; NTUH)、長庚紀念醫院(Chang Gung Memorial Hospital; CGMH)において Travelling Fellowship に参加する機会をいただき、2025年11月3日〜14日の期間で研修を行いました。最初の1週間はNTUH、次の1週間はCGMHという流れで研修させていただきました。
千葉大学整形外科と台湾の交流は2017年の第1回以来継続しており、その歴史ある交流事業の一端を担えたことを大変光栄に感じております。
■ NTUH 脊椎グループでの研修
1週目は NTUH の脊椎外科グループに所属し、主に手術見学を中心とした研修を行いました。
台湾の医療保険制度では、患者の自己負担の有無によって使用できるインプラントや手術支援機器が大きく制限されており、とりわけ経皮的Pedicle screw挿入術やナビゲーション(O-arm等)の使用は原則として自費での対応になることを改めて認識しました。そのため、脊椎手術はOpen手技または内視鏡手術が中心となっており、術者は狭い術野の中でいかに安全かつ効率的に、正確に手技を進めるかという点を重視されていました。
NTUHでは内視鏡手術の件数が多く、画質の良い映像と洗練された技術を直接見ることができ、大変勉強になりました。
また、今回の留学をアレンジしてくださった Dr. 王俊傑 が分院であるがんセンターに所属されていたため、そちらでも研修させていただきました。転移性骨腫瘍による胸椎由来脊髄症に対する後方侵入前方除圧など、普段なかなか見ることのできない手術も見学することができ、貴重な経験となりました。
台湾では看護師の専門性が非常に高く、麻酔維持専従の看護師、手術助手として資格を持つ看護師など、多様な役割分担が確立しているとのことでした。がんセンターでの手術でも、医師は術者1名のみで、麻酔維持や助手はすべて資格を持つ看護師が担っており、大きな衝撃を受けました。
日本では技術や医療機器の進歩によって手術環境が年々改善されている一方、台湾では解剖・透視・触診を駆使した“本質的な手技の強さ”が求められており、ナビゲーション関連の研究を進める自分にとって、原点を見直す非常に良い機会となりました。
■ CGMH 脊椎グループでの研修
2週目のCGMHは台湾最大級の医療センターであり、本院の整形外科・脊椎グループでは年間3,000件超の脊椎手術を行っているとされています。変性疾患、外傷、腫瘍、転移、骨粗鬆症性骨折など、多岐にわたる症例を専門医・フェロー体制で取り扱う大規模施設です。
今回の研修では、本院の脊椎外科グループの手術見学とカンファレンスに参加させていただきました。CGMHでは1日の手術件数および稼働する手術室数が多く、術前準備・麻酔導入・器械出し・ポジショニングなどの各プロセスが明確かつ迅速に進んでいきました。
教授が2部屋を担当し、1日6〜8件程度の手術をこなす体制には大変驚かされました。展開やスクリュー挿入などは若手医師・フェローが担当し、重要な操作は教授が行うという役割分担が徹底されており、手術数の確保と若手教育の双方にとって非常に有用な仕組みであると感じました。
また、CGMHには複数の教授が在籍しており、それぞれが得意分野を理解し合い、互いを尊重しながら過干渉なく業務を進めており、その関係性にも大変感銘を受けました。
手術手技においても、NTUH同様にOpen手技が中心であり、難しいPedicle screwをFree handで正確に挿入する技術には大きな衝撃を受けました。また、放射線被曝への意識が非常に高く、PS挿入時やケージ位置確認のC-arm透視の際は、全員が手術室の外に出てワンショットのみで確認するという徹底ぶりでした。
研究活動についても若手医師が積極的で、同年代の医師が多くの論文を発表しており、研究への意識の高さと、症例数の多さを活かした研究体制の強さを実感しました。
■ カンファレンスとディスカッション
毎週木曜日に行われる脊椎カンファレンスでは、症例検討に加え、若手フェローを中心とした英語での症例提示が活発に行われていました。若手医師が臆せず意見を述べ、議論が非常に盛り上がっており、英語でのディスカッション能力の高さを強く感じました。
また、私自身も千葉大学で行っている研究について発表する機会をいただき、台湾の先生方から多くの質問をいただきました。
■ 働き方・医療制度の違い
台湾では医療保険制度の影響が大きく、
インプラント選択
手術支援機器の導入
術式の選択肢
が保険の範囲によって大きく左右されます。
また、病棟・手術室ではサブスペシャリティを持つ看護師が多く、術前後の管理から器械セットアップまで非常に洗練されており、整形外科医が手術に集中できる環境が整っている点は非常に印象的でした。
■ 台湾での生活と交流
NTUHでの研修期間中には、Dr. 王が奥様とともに休日に九份・十分などへ自家用車で案内してくださいました。台湾での生活、医師の働き方、給与事情、子育てなど、多岐にわたる話を伺うことができ、文化的背景を深く理解する貴重な機会となりました。
また、CGMHでの研修では、第1回のFellowshipで千葉大学に来られていた Dr. 高 に何度も食事に誘っていただき、日本人が全く来ないようなローカルなお店にも連れて行っていただきました。Fellowshipを通じた縁のつながりを強く感じ、この交流事業を継続することの重要性を改めて認識しました。
さらに最終日前日には、脊椎・関節・レジデント合同で懇親会を開催していただきました。台湾には“飲みニケーション”の文化が今も残っているとのことで、レジデントと上級医が積極的に交流しており、良好な関係性が構築されている印象を受けました。
- 葉 佐俊先生(CGMH留学中)からのご支援
CGMHでの研修では、現在留学中の 葉 佐俊先生 にも各所で大変お世話になりました。手術室でのご紹介や案内はもちろんのこと、台湾での生活のアドバイス、病院内の仕組みの説明など、多方面にわたり温かいサポートをいただきました。
また、何度か食事に誘ってくださり、台湾のローカル文化や台湾整形外科のリアルな現状、留学生活の実際など、深い話を伺うことができました。葉先生がCGMHで培われている信頼関係やネットワークを肌で感じることができました。
■ 今後の交流に向けて
千葉大学整形外科では毎年台湾からのフェローを受け入れており、今回私が受けた温かい歓迎と丁寧なご指導を、次に来日される台湾の先生方にも同じように返していきたいと感じました。
また、今回の研修で議論したテーマの中には、将来的に共同研究として発展し得る可能性を強く感じています。今回得たつながりを大切にしつつ、今後も国際的な研究・教育活動を継続していきたいと思います。
■ 最後に
今回の貴重な機会をご調整いただいた
葉 國璽先生
葉 佐俊先生
NTUH・CGMH脊椎グループの先生方・スタッフの皆さま
そして千葉大学整形外科の諸先生方
に、この場をお借りして心より御礼申し上げます。
今回得た経験を、今後の診療・研究・教育に必ず活かしてまいります。










