Research

研究

運動器疼痛

更新日 2021.7.15

超高齢化社会である本邦では健康寿命の延伸が謳われていますが、その大きな障害となるのが運動器の疼痛です。症状の多くは腰痛と関節痛であり、その原因は多岐にわたります。慢性化した疼痛は治療に難渋することも多く、そのメカニズムの解明が急務であり世界中で広く研究されています。当教室では、永きに渡り行ってきた慢性腰痛研究の他、骨痛、関節痛など筋骨格系を中心とした疼痛について研究テーマを立案し、ロコモペイングループとして各グループの垣根を越え基礎研究活動を活発に行っています。各研究テーマについてご紹介いたします。

 

<研究テーマ>

・椎間板性腰痛

・骨粗鬆症由来腰痛

・関節痛(股関節)

・サルコペニアと酸化ストレス

・慢性疼痛と中枢神経系の変化

・末梢神経損傷

 

●椎間板性疼痛

【腰痛の発生源としての椎間板、椎体終板】

変性椎間板,MRIで捉えられる椎体終板軟骨は必ずしも腰痛の原因とは言えません。しかし一部の症例では、その変性が腰痛の原因となりうることは確かなようです。1970年教室の篠原は椎間板性腰痛の患者から椎間板を採取し、ヒト病的椎間板では炎症性サイトカインが発現し、椎間板周囲にしか存在しない自由神経終末を内層に侵入させる(nerve ingrowth)、これが慢性椎間板性腰痛の一因と考えられると報告しました[1]。残念ながら本論文は日本語であったために、1997年にFreemontらによってLancetに発表された椎間板性腰痛とnerve in growthの原著が世界で初めての椎間板性腰痛の機序として記載されていますが、本邦では実にその27 年前に解明されていたことになります。(図1)

以降本教室の椎間板性疼痛研究は脈々と受け継がれ、数々の研究成果を挙げてきました。

 

【椎間板性腰痛のメカニズム】

教室の山内らはヒト慢性腰痛患者から摘出した椎間板とラットの神経細胞の共培養を行った結果、椎間板細胞内の神経成長因子(nerve growth factor)とtumor necrosis factor alpha(TNFα)が神経のnerve ingrowth を誘導し、さらに神経細胞のもつさまざまな受容体のうち,nerve growth factor受容体でtyrosine kinase A(TrkA)とp75 受容体が疼痛関連のペプチド誘導に重要な役割を持つことを明らかにしました[2]。また椎体終板においても、大鳥らはヒト異常椎体終板軟骨にもTNFαに誘導された神経が入り込んで疼痛を惹起していることを明らかにしました[3]。椎間板性腰痛の治療として我々が報告してきたこれらの因子がターゲットとされています。

 

【椎間板性腰痛に関与する神経伝導路】

椎間板性腰痛に関与する神経伝導路については、直近の神経根支配に限定されない多高位支配を受けることが報告されています。高橋弦らはあらかじめ静注しておいた色素が椎間板刺激で鼡径部の皮膚(L2 領域)に漏出すること[4]、中村伸一郎らは椎間板の豊富な神経線維叢が前方に存在する傍脊椎交感神経幹を切離するとほぼ消失することをそれぞれ報告し[5]、椎間板の支配神経はL2 神経根から傍脊椎交感神経幹を経由することを証明しました。この下位腰椎椎間板の神経支配はL2神経根が優位であるという基礎医学的事実を元に、中村、大鳥らはL2神経根ブロックが椎間板性腰痛の改善に有効な場合があることを報告しています[6,7]。

 

【椎間板性腰痛の疼痛分類】

椎間板性腰痛の性状として、前述の通り、椎間板局所の炎症性メディエータによる炎症反応が惹起する侵害受容性疼痛がその主要因と考えられてきました。一方で、井上らは椎間板穿刺による変性が神経障害関連蛋白の産生を促進し神経障害性疼痛を惹起する可能性を[8]、青木、宮城らは局所での持続的な慢性炎症や椎間板変性がもたらす器質的障害が神経障害を来たし,脊髄後角でのグリア活性亢進や異所性神経発芽などにより神経障害性疼痛が合併する可能性を指摘しました[9,10]。さらに宮城らは、変性した尾椎椎間板にさらに持続的な圧迫を加えたところ、椎間板でのメディエータおよび神経損傷のバイオマーカーは上昇・遷延化することを明らかにし、変性椎間板への慢性的な圧迫は混合性疼痛を増強、さらに持続させる可能性が示唆されました[11]。

 

【椎間板性腰痛の治療】

これまで述べてきたような椎間板性腰痛のメカニズムを元に,治療に直結する基礎医学的メカニズムの解明とそれを元にした新規治療の開発が進められており、その一つとして抗サイトカイン療法が挙げられます。

西能らはラット変性椎間板モデルに対しNGFおよびその受容体に対する抗体を投与することで疼痛関連ペプチドの発現が抑制され、同様にTNFα、IL-6 など他のサイトカイン阻害も疼痛へ有効性であると報告しました[12,13]。このようなサイトカインブロック療法は未だ研究段階ではあるものの、今後の慢性疼痛管理において重要な手法の一つとなることが期待されます。

 

  1. Shinohara H. Lumbar disc lesion, with special reference to the histological significance

of nerve endings of the lumbar discs. J Jpn Orthop Assoc 1970; 44: 553‒570.

  1. Yamauchi K, Inoue G, Koshi T et al. Nerve growth factor of cultured medium extracted from human degenerative nucleus pulposus promotes sensory nerve growth and induces substance p in vitro. Spine (Phila Pa 1976). 2009 Oct 1;34(21):2263-9.
  2. Ohtori S, Ito T, Inoue G et al. Tumor necrosis factor-immunoreactive cells and PGP 9.5-immunoreactive sensory nerve fibers in vertebral endplates of patients with discogenic low back pain and Modic type 1 or type 2 changes on MRI. Spine. 2006; 31: 1026‒1031.
  3. Takahashi Y, Nakajima Y, Sakamoto T et al. Capsaicin applied to rat lumbar intervertebral disc causes extravasation in the groin skin: a possible mechanism of referred pain of the intervertebral disc. Neurosci Lett. 1993; 161: 1‒3.
  4. Nakamura S, Takahashi K, Takahashi Y et al. Origin of nerves supplying the posterior portion of lumbar intervertebral discs in rats. Spine. 1996; 21: 917‒924.
  5. Nakamura S, Takahashi K, Takahashi Y et al. The afferent pathways of discogenic low back pain. J Bone Joint Surg [Br]. 1996; 78: 606‒612.
  6. Ohtori S, Nakamura S, Koshi T et al. Effectiveness of L2 spinal nerve infiltration for selective discogenic low back pain patients. J Orthop Sci. 2010 Nov;15(6):731-6.
  7. Inoue G, Ohtori S, Aoki Y, et al. Exposure of the nucleus pulposus to the outside of the anulus fibrosus induces nerve injury and regeneration of the afferent fibers innervating the lumbar intervertebral discs in rats. Spine. 2006;31(13): 1433-8.
  8. Aoki Y, Takahashi Y, Ohtori S, et al. Distribution and immunocytochemical characterization of dorsal root ganglion neurons innervating the lumbar intervertebral disc in rats: a review. Life sciences. 2004;74(21): 2627-42.
  9. Miyagi M, Ishikawa T, Orita S, et al. Disk injury in rats produces persistent increases in pain-related neuropeptides in dorsal root ganglia and spinal cord glia but only transient increases in inflammatory mediators: pathomechanism of chronic diskogenic low back pain. Spine (Phila Pa 1976). 2011;36(26): 2260-6.
  10. Miyagi M, Ishikawa T, Kamoda H, et al. ISSLS prize winner: disc dynamic compression in rats produces long-lasting increases in inflammatory mediators in discs and induces long-lasting nerve injury and regeneration of the afferent fibers innervating discs: a pathomechanism for chronic discogenic low back pain. Spine (Phila Pa 1976). 2012;37(21): 1810-8.
  11. Sainoh T, Orita S, Miyagi M, et al. Single Intradiscal Administration of the Tumor Necrosis Factor-Alpha Inhibitor, Etanercept, for Patients with Discogenic Low Back Pain. Pain Med. 2016;17(1): 40-5.
  12. Sainoh T, Orita S, Miyagi M, et al. Single intradiscal injection of the interleukin-6 receptor antibody tocilizumab provides short-term relief of discogenic low back pain; prospective comparative cohort study. J Orthop Sci. 2016;21(1): 2-6.

 

●骨粗鬆症由来疼痛

臨床現場において骨粗鬆症患者さんが、骨折が明らかでない場合でも腰背部痛を訴えることがあり、時に治療に難渋します。これらの症例ではMRI等の画像検査で有意な所見が得られないこともあり、骨粗鬆化そのものが疼痛をきたす可能性があります。実際に骨傷のない骨粗鬆状態が痛みの原因になり得るのか否かについては議論も多くありますが、我々はこのような疼痛を骨粗鬆症由来疼痛(Osteoporosis-related Pain)と称し,臨床的所見も含め「骨傷の明らかでない骨粗鬆症患者が訴え,時に慢性化し治療に難渋しうる腰背部痛」として定義しています。

 

【骨粗鬆症由来疼痛の発生機序】

骨粗鬆症モデルは卵巣摘出(ovariectomized: OVX)による動物モデルが標準的に用いられています。成田らはこのOVXマウスを用い、疼痛行動評価試験を行った結果、骨密度が低下したOVXマウスは皮膚疼痛過敏性と深部骨格筋痛を来すことを明らかにしました[1]。

骨粗鬆症由来疼痛の発生機序として、局所から中枢に至る疼痛経路での複数要因が関与していると考えられ、1. 椎体局所の変化、2. 後根神経節(Dorsal Root Ganglia; DRG)による変化、3. 脊髄後角における変化に分類することができます。

 

1) 椎体局所における変化

閉経後骨粗鬆症ではエストロゲン欠乏によって破骨細胞の抑制作用が減弱し、これによって活性化した破骨細胞による骨吸収亢進が局所のpHを低下させることによる微小産生環境をもたらします。椎体内に分布する神経線維上にはカプサイシンや酸、熱刺激により活性化され疼痛伝達に関わるイオンチャネルや酸受容体がC線維を中心に発現しており、骨粗鬆状態ではこれらのタンパクを介して知覚神経自由終末上の侵害受容器が刺激され疼痛が惹起されていると考えられています。また成田らは椎体の重力負荷(軸圧)のシミュレーションとして、OVXラット尾椎の椎体長軸方向圧迫モデルを作成し、DRGにおけるCGRPおよび神経傷害のマーカーであるATF3がいずれも圧迫を加えることでSham(偽手術)群に比し経時的に発現亢進することを明らかにしました[2]。本研究結果は、骨粗鬆症由来疼痛が侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛の要素を併せ持つ混合性疼痛の要素を持ち、慢性疼痛を惹起しうることの科学的根拠となるものです。

 

2) DRGにおける変化

折田らはOVXモデル椎体を支配するDRGの変化について、上位腰椎DRGにより優位に支配されるL3椎体を支配するDRG細胞でのCGRP,TRPV1の発現を調べたところ,OVX群ではSham群と比較していずれも有意な発現亢進を観察しました[3]。すなわちOVXモデルでは慢性的に炎症性疼痛が惹起されやすく、疼痛に対する閾値が慢性的に低下していることが示されました。大鳥らは、過去にラット腰椎椎体は当該高位のほか交感神経幹を通じてL1-L2を中心とするDRGにより支配されていることを報告しています[4]。従いまして、我々は骨粗鬆症に伴う椎体を含む骨硬組織での骨粗鬆性変化が支配DRGでの不均一な炎症性変化を惹起し,皮膚・骨分節に従いながら全身的かつ局在性の低い疼痛をもたらしていると考えています。

 

3) 脊髄後角における変化

骨粗鬆症に伴う局所での慢性的かつ持続的な炎症性刺激が脊髄での変化を通じて慢性的疼痛を引き起こす可能性があるといわれています。ラットOVXモデル脊髄におけるマイクログリア活性の変化が示唆されており、骨粗鬆性疼痛での脊髄後角における少なからぬ変化が注目されます。中枢神経系における痛みに対する変化について,今後さらなる研究を重ねる必要があります。

 

【骨粗鬆症由来疼痛と骨粗鬆症治療薬の関係】

骨粗鬆症治療薬の作用点は局所から脊髄まで多岐にわたり,骨粗鬆症治療薬は各々異なる機序により働いている可能性が考えられます[5]。臨床でも骨粗鬆性疼痛患者に対して鎮痛作用が報告されているビスフォスフォネートは,単離培養した感覚神経細胞の活性を抑制することで直接的に鎮痛効果をきたすことが確認され,運動負荷を併せて行うことによってCGRPの発現亢進は抑制され,骨粗鬆症治療がもつ鎮痛効果が示されました[3]。しかし痛みが慢性化した場合、骨密度改善のみでは鎮痛が不十分な場合があることが分かってくるなど[1]、今後の研究成果が待たれます。骨粗鬆症由来疼痛研究は、マギル大学アランエドワード痛みセンターとの共同研究を行うことによりさらに発展しました。今後もワールドワイドな研究活動を行って行きたいと思います。

 

  1. Suzuki M, Millecamps M, Naso L, Ohtori S, Mori C, Stone LS.Chronic Osteoporotic Pain in Mice: Cutaneous and Deep Musculoskeletal Pain Are Partially Independent of Bone Resorption and Differentially Sensitive to Pharmacological Interventions.

J Osteoporos. 2017; 2017:7582716.

  1. Suzuki M, Orita S, Miyagi M, et al.: Vertebral compression exacerbates osteoporotic pain in an ovariectomy-induced osteoporosis rat model. Spine, 38 (2013) 2085-91.
  2. Orita S, Ohtori S, Koshi T, et al.: The effects of risedronate and exercise on osteoporotic lumbar rat vertebrae and their sensory innervation. Spine, 35 (2010) 1974-82.
  3. Ohtori S, Inoue G, Koshi T, et al.: Characteristics of sensory dorsal root ganglia neurons innervating the lumbar vertebral body in rats. J Pain, 8 (2007) 483-8.
  4. Orita S, Ohtori S, Inoue G, et al.: Osteoporotic Pain. 521-54 In: Dionyssiotis Y ed. Osteoporosis. InTech, Rijeka, Croatia, 2012

 

●関節痛(股関節)の基礎研究

教室の大前と宮本らはラット股関節に神経伸長因子やmonoiodoacetate(MIA)投与することで変形性股関節症モデルを作成することに成功しました[1-2]。また、それらのモデルにおいて疼痛行動学的評価、逆行性神経トレーサーを用いた後根神経節(DRG)での神経活性の変化(炎症性疼痛マーカー, 神経障害マーカー)を評価することで、モデルの妥当性を検証するとともに、疼痛機序解明においては初期には滑膜炎などに伴う炎症性の疼痛、晩期には神経原性の疼痛が関与してくることを明らかにしています[3]。更に瓦井らは末期変形性股関節症に伴う慢性股関節痛が神経障害性疼痛を惹起し、中枢神経系のマイクログリアに影響を及ぼすことを報告し、またそれはduloxetineの全身投与にて改善することが分かってきました[4-5]。現在は慢性股関節痛に対する弱オピオイドによる鎮痛機序、治療効果の解明や、外科的変形性股関節症モデルの作成に取り組んでおり、今後さらなる研究の発展が見込まれます。

 

  1. Omae T, Nakamura J, Ohtori S, Orita S, Yamauchi K, Miyamoto S, Hagiwara S, Kishida S, Takahashi K. A novel rat model of hip pain by intra-articular injection of nerve growth factor-characteristics of sensory innervation and inflammatory arthritis. Mod Rheumatol. 2015;25(6):931-6.
  2. Miyamoto S, Nakamura J, Ohtori S, Orita S, Omae T, Nakajima T, Suzuki T, Takahashi K. Intra-articular injection of mono-iodoacetate induces osteoarthritis of the hip in rats. BMC Musculoskelet Disord. 2016 Mar 18; 17:132.
  3. Miyamoto S, Nakamura J, Ohtori S, Orita S, Nakajima T, Omae T, Hagiwara S, Takazawa M, Suzuki M, Suzuki T, Takahashi K. Pain-related behavior and the characteristics of dorsal-root ganglia in a rat model of hip osteoarthritis induced by mono-iodoacetate. J Orthop Res. 2017 Jul;35(7):1424-1430.
  4. Kawarai Y, Orita S, Nakamura J, Miyamoto S, Suzuki M, Inage K, Hagiwara S, Suzuki T, Nakajima T, Akazawa T, Ohtori S. Changes in proinflammatory cytokines, neuropeptides, and microglia in an animal model of monosodium iodoacetate-induced hip osteoarthritis. J Orthop Res. 2018 Nov;36(11):2978-2986.
  5. Kawarai Y, Orita S, Nakamura J, Miyamoto S, Suzuki M, Inage K, Hagiwara S, Suzuki T, Nakajima T, Akazawa T, Ohtori S. Analgesic Effect of Duloxetine on an Animal Model of Monosodium Iodoacetate-Induced Hip Osteoarthritis. J Orthop Res. 2020 Feb;38(2):422-430.

 

●サルコペニアと酸化ストレス

【サルコペニア】

高齢社会における最近のtopicとしてサルコペニア(加齢性筋肉減少症)があり、高齢者運動機能低下およびQOL低下の要因として注目を集めさまざまな研究が開始されています。サルコペニアとは1989年にRosenbergにより提唱された疾患概念であり、2010年に欧州ワーキンググループ(European Working Group on Sarcopenia in Older People: EWGSOP)により、『身体的な障害や生活の質の低下,および死などの有害な転帰のリスクを伴うものであり、進行性および全身性の骨格筋量および骨格筋力の低下を特徴とする症候群』と定義されます。

江口らは腰痛を主訴とする脊椎疾患患者45症例において、下肢筋量および体幹筋量(Dual energy X-ray Absorptiometry: DXA法にて評価)と姿勢(レントゲン全脊柱正側面像にて評価)を解析し、下肢筋量と骨盤後傾が、体幹筋量と前傾、骨盤後傾、側弯それぞれが相関したと報告し[1]、さらに腰痛,筋量,姿勢それぞれのパラメーターが密接に関連しているとも報告しました。すなわち、サルコペニアによる下肢筋量および体幹筋量低下が姿勢異常をもたらし,腰痛の発生源になっている可能性が示唆されます。

またこれらサルコペニアが関与すると思われる腰痛に対しての治療については、当然サルコペニアへの治療(筋量増加)が有効であると推測されますが、治療介入のデータは未だ少ないため、今後の研究課題であるといえます。

 

【酸化ストレス】

加齢により酸化ストレスが体内に蓄積することはよく知られています。特にその最終産物である不可逆的終末糖化産物(AGEs: Advanced Glycation End-products)は様々な疾患に関与し、中でもコラーゲンの架橋に影響することで骨、筋、神経などの微小構造に悪影響をもたらすとされていることから、我々は、AGEs蓄積と骨粗鬆症、サルコペニアと疼痛の関連について着目し基礎研究を行っております。

まずラット卵巣摘出モデルにおいて、海村らは、筋、神経には代表的なAGEsの一つであるペントシジン沈着を確認し、その沈着の程度と筋質、痛み閾値が相関することが分かりました。すなわち, AGEsは筋質や痛みのマーカーになりうる可能性がある事が示されました[2]。この研究は非常に重要なトランスレーショナルリサーチとして臨床研究に寄与し、結果AGEs蓄積と骨粗鬆症,サルコペニア、腰痛は関連が高いことが分かってきています[3]。

 

  1. Eguchi Y, Suzuki M, Yamanaka H et al: Associations between sarcopenia and degenerative lumbar scoliosis in older women.Scoliosis Spinal Disord. Mar 16; 12:9. 2017
  2. 海村 朋孝, 折田 純久, 稲毛 一秀, 井上 雅寛, 乗本 将輝, 佐藤 崇司, 佐藤 雅, 鈴木 雅博, 大鳥 精司: ラット卵巣摘出モデルにおける疼痛閾値と坐骨神経へのペントシジン沈着の関連. 日本整形外科学会雑誌 (0021-5325)92巻8号 Page S1957(2018.08)
  3. 海村朋孝, 折田純久, 稲毛一秀, 志賀康浩, 牧聡, 井上雅寛, 北村充広, 乗本将輝, 宮本卓弥, 佐藤崇司, 佐藤雅, 鈴木雅博, 榎本圭吾, 古矢丈雄, 大鳥精司: 終末糖化産物 (AGE) の蓄積が腰痛に及ぼす影響について. Journal of Spine Research 10(3): 398-398, 2019.

 

●慢性疼痛と中枢神経系の変化

 疼痛の慢性化には、末梢から脳に至る疼痛伝達経路の様々な段階での、器質的、機能的な変化が関わるとされます。特に脊髄は、グリア細胞や介在ニューロン、下降疼痛抑制系など様々機序で痛みシグナルが変化する重要な部位とされます。穂積らは慢性疼痛モデルマウスの脊髄における遺伝子発現変化を網羅的に解析し[1]、疼痛により励起される神経での炎症や機能的変化に加え、神経の構造的な変化にも注目しながら疼痛慢性化の機序に関し研究しています。

 

  1. Hozumi T, Sawai S, Jitsuishi T, Kitajo K, Inage K, Eguchi Y, Shiga Y, Narita M, Orita S, Ohtori S, Yamaguchi A. Gene expression profiling of the spinal cord at the chronic pain phase identified CDKL5 as a candidate gene for neural remodeling.

Neurosci Lett. 2021 Apr 1; 749:135772.

 

●末梢神経障害の治療

外傷性末梢神経損傷や絞扼性神経障害の外科的治療法として、自身の静脈を損傷神経に巻き付けるVein Wrappingという方法があります。その分子科学的な作用機序は長らく不明でしたが、広沢らはその一旦として、静脈に含まれる basic fibroblast growth factor(bFGF) の関与を報告しました[1,2]。また静脈に代わりシートを用いたSheet Wrappingという方法にも注目し、向井らはコラーゲンシートにbFGFを浸透させた場合の除痛効果も検討し報告しています[3]。今後もVein Wrappingのメカニズム研究を通じて、末梢神経損傷に対する治療法を検討して参ります。

 

  1. Hirosawa N, Uchida K, Kuniyoshi K et al. Vein wrapping promotes M2 macrophage polarization in a rat chronic constriction injury model. J Orthop Res. 2018 Feb 20.
  2. Hirosawa N, Uchida K, Kuniyoshi K et al. Vein wrapping facilitates basic fibroblast growth factor-induced heme oxygenase-1 expression following chronic nerve constriction injury. J Orthop Res. 2018 Mar;36(3):898-905.
  3. Mukai M, Uchida K, Hirosawa N et al. Wrapping With Basic Fibroblast Growth Factor-Impregnated Collagen Sheet Reduces Rat Sciatic Nerve Allodynia. J Orthop Res. 2019 Oct;37(10):2258-2263.