スイスベルン大学短期留学 AOSpine Fellowship report

更新日 2017.11.12

平成12年卒 君津中央病院
藤由 崇之

 私は平成29年10月2日から10月20日までの3週間、AOSpine Asia PacificのSpine fellowとして、スイスの首都ベルンにあるベルン大学Inselspital Hospital(Fig.1)に短期留学してきましたので報告させていただきます。

 スイスまでは、成田空港からチューリッヒまでの直行便(Swiss air)が毎日1便運航されており、約12時間のフライトで到着することができます。ベルンまでは、特急列車にてチューリッヒから約1時間かかります。ベルンは都市全体が世界遺産となっており、石畳の道路や建造物、時計台、町の周りを流れるアーレ川は絶景であり、毎日散歩しても飽きないものでした。10月初旬はとても暖かく、持参したダウンコートは不要でした。日中から夕方の気温は20℃前後であり、カーディガン1枚で過ごすことができ、天候にも恵まれて大変良かったです。私は、1か月間滞在する予定としたため、キッチン・家具・テレビ付きのアパートを借りて生活しました。このアパートは、留学先のInselspital Hospitalの整形外科脊椎チームの秘書Karinさんがお勧めしてくれた物件です。最初の2日間は温水が出なかったですが(ボイラーの修理中だったみたいです)、残りの27日間はとても快適な生活を送ることができました。スイスは物価が高いため(日本の2-3倍 ビッグマックセットが約1500円)、外食はあまりせずに自炊の生活をしていました。

 メインである留学に関してですが、アパートからInselspital Hospitalまでは路面電車とバスを乗り継ぎ、約10分で到着する近さでした。Inselspital Hospitalの整形外科はSpine, Shoulder/Elbow/Sports, Hip/Tumor, Knee, Footの5つのチームに分かれており、医師はレジデント合わせて総勢約40名の大所帯でした。スイスの公用語は4言語(ドイツ語、イタリア語、フランス語、ロマンシュ語)ありますが、ベルンではほとんどがドイツ語でした。朝のカンファレンスはAM7:15から開始され、前日の救急外来患者、手術患者、予定手術患者のプレゼンテーションがミーティングルーム(Fig.2)で行われます。2台の映写機を駆使してスクリーンにキーポイントとなる画像を映し出し、レジデントがそれぞれプレゼンし、アドバイザーがその場で的確に質問し、指示を出し、方針を決定します。前日運ばれてきた外傷症例の内、まだ手術がなされていない症例に関しては朝のカンファレンス後、同日に手術が施行されており、対応の早さに大変驚きました。特に土日の週末に運ばれてきた外傷患者は同日にレジデントとコンサルタントで難しい多発外傷(脊椎骨折・骨盤骨折・大腿骨骨折などの複合損傷)患者をいとも簡単に手術を完結してしまうのには感銘を受けました。コンサルタントの全ての医師が、Traumaに精通しており、さすがAO発祥の地だなと思いました。ちなみに、ベルン大学は、AOTrauma創設者のM. E. Müller先生が研究されていた場所です。

 脊椎手術に関しては、日本で使われていないインプラントを身近で見ることができました。特に、骨粗鬆症患者に対して、骨セメントを多用していたのが印象的です。私も骨粗鬆症患者における脊椎手術の際、リン酸カルシウム骨ペースト(バイオペックス®)を椎弓根スクリュー刺入部に注入してからスクリューを刺入するという工夫をしておりますが、骨セメントの方がはるかに強度は高く、スクリュー脱転予防につながると感じました。また、多椎体の骨セメントによる椎体形成が認可されているため、骨セメントを多用しておりました。日本ではまだ使用できないことを伝えると、「何故なんだ? おかしいぞ!」みたいなことを言っておりました。また、スクリュー固定術をした際には、隣接椎体骨折の予防を目的として、骨セメントのみによる椎体形成が行われていたことが興味深かったです。これに関しては、中長期フォローにてどのような結果になっているのか楽しみです。その他は、Carbon/PEEKスクリューやCarbon/PEEKロッドを脊椎転移症例において使用しているのが印象的でした。もちろん、強度はチタンスクリューよりも劣りますが、脊椎転移癌に対する放射線治療を有効に行えることができ、症例を選べば大変有用であると思いました。その他の手術に関してですが、低侵襲手術の概念はあまりないらしく、ほとんどの手術は大きな切開・大きな展開で手術を行っておりました。また、Navigationは使用せずに、イメージを使用しながらスクリューを挿入していました。少し前の日本といったところでしょうか。どちらにせよ、第一助手もしくは第二助手にてScrub-inすることができたので大変有意義な留学でした。また、AOSpine Latin AmericaからもFellowが一人同時期に来ており(Fig.3)、それぞれの適応や問題点などを話すことができ、大変貴重な時間を過ごすことができました。

 最後になりますが、1か月間の不在にも関わらず、あたたかく見送っていただいた君津中央病院整形外科のスタッフの皆様、また、留学を薦めて下さった豊根知明先生、田中正先生、留学中にお世話になったLorin教授およびInselspital Hospitalの整形外科スタッフ(Fig.4)の皆様に心から感謝申し上げます。ありがとうございました。