第四十四回千葉東洋医学シンポジウム賞を受賞致しました

更新日 2019.4.2

千葉大学大学院医学研究院整形外科学
佐藤崇司

去る平成三十一年三月二十三日、今年で第四十四回を数えます千葉県で一番古く由緒の正しい東洋医学系の研究会であります千葉東洋医学シンポジウム『QOL向上を目指す長寿社会の漢方治療』(株式会社ツムラ主催)にて、第四十四回千葉東洋医学シンポジウム賞を受賞した事をご報告致します。

 

私の演題は『難治性の運動器疼痛に東洋医学はどこまで有用か?』というテーマで、西洋医学的治療に反応しない運動器関連の疼痛を有する患者様に漢方や鍼灸などの東洋医学的治療を適宜試みたところ、好転する例が多くあったと言う内容です。今回は主に脊椎の首下がり症候群をメインとしていくつかの症例を取り上げました。

(釈迦に説法ですが)首下がり症候群は特発性、薬剤性、神経疾患続発性など様々な原因で頸部の屈曲筋群・伸筋群のバランスが破綻し、首が下がったまま上がらず前を向けない、同時に強い痛みや苦しみを伴うと言う病態で、現在のところ確実に有効である治療が定まっていない難治性疾患であり、目下脊椎外科医の悩みの種であります。

この症例に対し、思うところあって鍼灸治療を行って見たところ(前例なし)、わずか数回の治療で劇的に病態(痛み、首曲がり両方、原因によらず)が改善し、私も仰天、患者様も大喜びと言う症例を1例のみならず複数経験し、それをまとめて報告致しました。拘縮している頸部屈筋群、疲弊して硬くなっている後頸部伸筋群への刺鍼が血流改善を促し、痛みのみならず頚椎アライメントの改善にまで繋がっている、と言うことをまとめたものです。また、鍼灸による病勢改善後も代謝・血流・筋力などを向上させる働きを備えた漢方薬を持続的に内服いただいている事も相成って、経過観察を続けている範囲内では再発や病勢増悪も来すことなく、治療効果も極めて良好に維持されている、と言う印象です。この分野におけるテーマの新規性、そして、(これは腰椎グループお家芸の大風呂敷ですが)『曲がった首が直るなら、曲がった腰も東洋医学的治療で直るのではないか』と壮大な展望を最後に披露したことも好評価を頂けたものと勝手に思っております。

 

医療がますます細分化、専門化して行く時代の潮流の中で、どうしても現在の西洋医学的な診断学では掬いきれずに疎外され、拠り所のない痛みに苦しむ患者様も未だ多く、他の施設での治療が奏功しなかった患者様が紹介状を片手に連日大学病院へ行列を成して押し寄せて来ます。しかし、同じ治療体系である西洋医学の物差しでは、少しハイテクの機械や検査治療で迎え撃っても結果は同じであり、為すすべもない、と言うことは実際には日常茶飯事です。そんな時、全く違う物が見える虫眼鏡である『和漢診療学』を心得る医師が一人でもそこに居たならば、これまで取りこぼしていた痛みのいくつかを掬ってあげられるはずです。今回は首下がり症候群を取り上げましたが、成人脊柱変形全般、そして脊椎術後の疼痛遺残症例(Failed Back Surgery Syndrome, FBSS)への東洋医学的治療も目下試みておりますが、ある程度の手応えを既に得られ始めており、第2弾、第3弾のご報告を是非ご期待頂きたく思います。

『和漢診療学は江戸時代の漢方を墨守するものではない。東西の叡智を結集して有効で安全な治療学の形成を目指しているのである。』私が理想の医師像と尊敬してやまない、千葉大学和漢診療科名誉教授である寺澤捷年先生の御言葉です。道は極めて深淵にして未だ富士の1合目、鳥居をくぐった辺りに過ぎないと日々痛感していますが、今後も驕ることなく、私が理想と信じる東西の粋を結集した治療学の習得に日々努めて参りたいと決意を新たにした次第です。

 

最後に、所謂整形外科医の王道とは程遠く、異端としか言いようのない自由勝手な活動を容認していただき、全力で支援して頂いています大鳥精司教授無しでは今回の受賞は成し得なかった事であり、大鳥教授にはこの場をお借りして深く感謝を申し上げます。