AOSpine Faculty Educational Program (FEP)に参加して

更新日 2019.10.13

折田純久(平成16年卒),古矢丈雄(平成13年卒)

(1) FEP参加記(折田純久)

2019年9月21-22日の2日間,ネパールの首都であるカトマンズにて開催されたAOSpine主催のFaculty Educational Program (FEP)に参加して参りました.参加者はAOSpineのFaculty候補(フェロー)となったアジア・パシフィック地域の脊椎外科医および脳外科医で,ChairがYu Liang先生(中国),Abhay Nene先生(インド)の両名であり,今回は特にNene先生がホストの中心であったことからインド各地からの中堅医師を中心にネパール,タイや韓国,オーストラリアなど各地からフェローがカトマンズの地に集結,日本からは折田と古矢丈雄先生の2名が参加し計16名のフェローが参加してプログラムが行われました.

本プログラムは期間内にAOSpineのEducation担当講師によるレクチャーを受けた後に2班に分かれ,各々の中で10分間のレクチャー,AO骨折モデルを用いての実習指導,ケースディスカッションなどの3つのテーマにおいて講師役,生徒役を交代しながら互いの長所,短所を指摘し合いいかに効率的・能率的に学習効果を最大限に引き出すかを検討していきます.終始英語でのプログラムであり複数の他国のフェローとの共同プログラムですので,当初はお互いにやや硬い雰囲気であったものの,お互いにニックネームで呼び合うなどのChairのお心遣いなどもあり,次第にお互い打ち解けて最後には将来どこかのAOSpineプログラムで会おう,という約束を交わして散会となりました.本FEPは開始前5週間前から毎週のようにpdfによるテキストが配布されそれに対するe-Learningやオンラインディスカッションが課されます.日常業務との両立は若干慌ただしいところもありましたが,FEP本番になってみるとそこで学んだ知識が活きることも多く,現場で得た知識だけでは対応できなかったであろう場面も多々あったため,指導するという面において非常に有意義なプログラムであったと実感しています.

2日目の午後は4-5時間程度の時間の余裕があったため,すでに複数回のネパール訪問歴のある古矢先生に同行しカトマンズのダウンタウンに見学へ.アジア独特の人にあふれた勢いのある市場,数年前の大地震から復興過程にあるカトマンズの寺院からエネルギーをもらい,現地の視察のためさらに延泊される古矢先生と日本での再会を誓いつつ,折田は帰国の途につくこととなりました.

 

 

参加者集合写真

 

会場前にて,左より古矢丈雄先生,折田

 

(2) ネパール滞在記(古矢丈雄)

折田先生を見送った後,私は現地にもう1泊致しました.夜は今回のプログラムにネパールから参加されたRabindra教授ご夫妻と夕食をご一緒させていただき,互いの近況を報告し,ネパールと日本の医療の現状や問題点について意見交換を行いました.翌日は教授の勤務先であるKathmandu Medical Collage (KMC)の附属病院の見学を行いました.予定脊椎手術はありませんでしたが,Rabindra教授とBimal教授に外来と病棟をご案内いただきました.KMC Hospitalは数年前に参加させていただいたLive Surgery Courseの開催病院であり,また昨年ネパール脊椎外科学会に参加した際も学会前に訪問させていただいた病院です.Live Surgery Courseの際は手術室に入る機会をいただきましたが,外来と病棟の見学は今回が初めてでした.

 

外来はレジデントが予診を行い,問題のなさそうな患者さんはそのままレジデントで対応し,上級医に相談したほうがよさそうなケースをスタッフにコンサルトする2段階の形式をとっておりました.1日の整形外科の患者数はおおよそ100名ほどで,うち60名が新患,これを3名のレジデントと2名のスタッフで対応しておりました.KMCは企業の出資で運営されているのですが,教育機関ということもあり,医療費はいわゆるPrivate Hospitalよりも格段に安く,大変多くの患者さんを受け入れておりました.ちなみに初診料は日本円で60円,入院は1泊100円です (Private Hospitalの個室入院であればこの数十倍とのこと).また,特に貧しい人のために入院費がすべて無料の制度も運用されておりました.入院費用は上限が決まっており,除圧術などインプラントを使用しない手術はこれにカバーされます.整形外科手術入院においては,インプラント代はこの入院費とは別となり,別途患者さん持ちとなります.インプラントが必要な手術を計画する際,医師は患者さんにいくつかのオプションを提示します (欧米の機種はもちろん割高で,インド製は安価です).脊椎固定術が必要な症例であるが患者さんが貧しくどうしてもインプラント代が払えない場合は医師が企業に大幅値引きを交渉するとのことでした.

病棟は,感染専用,ハイケアユニット,一般の3つに分かれていた.驚いたことに一般患者さん用の病室はまったく仕切りのない大きな部屋が1つという構造でした.男性,女性は一応分かれていたがまるで修学旅行の大部屋という感じでした.脊椎疾患の入院患者は大まかに外傷50%,変性疾患25%,感染25%という比率です.訪問した際は小児の圧迫骨折や頚椎外傷,腰椎外傷などやはり外傷患者さんが多く入院しておりました.これはベトナム,インドネシアなど,多くの東南アジアの国と同じような疾患傾向です.これらの国と共通する問題として交通事故が依然多いことが挙げられます.ネパールも街中は車とバイクであふれており,信号機は無く,道も舗装されていないところがほとんどであり,交通事故が多いのは頷ける環境でありました.

 

ネパールの脊椎外科のレベルは訪問するたびに進歩していると感じます.現在は成人脊柱変形にも少し取り組み始めており,来年は腰椎の側方進入椎体間固定 (LIF)の導入を検討しているそうです.彼らは非常に勉強熱心で,北米や日本の学会に積極的に参加しています.現在もカナダで開催されている国際側弯症学会に2名のネパール人脊椎外科医が参加しているとのことでした.

 

今回の訪問は残念ながら大変短い時間でありましたが,AOSpineのプログラムに加え,ネパールの医療を実際にみることができた大変貴重な機会でした.最後に,今回のプログラムでご指導くださったFaculty先生方・AOSpine事務局の方,折田先生と私を推薦してくださった日本のCouncilの先生,ご多忙・お疲れの中,時間を割いて下さったKathmandu Medical CollageのRabindra教授,Bimal教授に深謝致します.また,本プログラムへの参加を快諾いただいた大鳥精司教授,留守を預かってくださった頚椎脊髄班スタッフ,研修医にも深謝致します.