2019年JABOトラベルスポンサーシッププログラム(TSP)報告

更新日 2019.11.2

さんむ医療センター 整形外科
大前 隆則

 

JABO TSP 14-B :

第6回 Mölndal Fracture Training Course

 

2019年9月18 日から20日、3日間の日程で第6回Mölndal Fracture Training Courseに参加しました。Mölndal HospitalはSweden第2の都市であるGöteborgにあります。

Sweden 国内では年間3万件の整形外科手術が行われている。Mölndal Hospital は整形外科医120名、整形外傷医23名、140床で年間5000件もの手術が行われ、大腿骨頚部骨折に関しては年間1100件もの手術が行われています。

私は大腿骨近位部骨折地域連携パスや、骨粗鬆症リエゾンサービスに携わることが多く、このような多くの大腿骨近位部骨折患者をどのような治療戦略、マネージメントしているかに興味がありました。

Swedenでは整形外科手術が年間3万件あります。6つの医療圏に分かれており、7つの大学病院があります。

Western regionにはSahlgrenska University Hospitalがあり、多発外傷や脊椎外傷を受け入れています。その付属病院に当たるMölndal HospitalはWestern regionの整形外傷患者の90%を受け入れています。

 

大腿骨近位部骨折患者のSweden National Goalは24時間以内に75%以上の患者を手術することで、若年・転位の大きい症例は6時間以内が目標になります。

それを実現するための、マネージメント・流れを学ぶことができました。

まずは救急搬送時に大腿骨近位部骨折が疑われる場合は救急隊がFascia Iliaca Compartment blockを行い、患者の痛みを早期に取り除き、必要時は12時間毎に繰り返し行うとのことでした。これは日本に持ち帰り、救急搬送時は困難であるが病院到着時には処置することの可能な有用な除痛方法と感じました。

病院到着後は、放射線科に直接搬送され放射線科医によって撮影のオーダー・診断がなされます。

その後、65歳以上の患者はGeriatricsへの入院となり、全身管理を行いながら手術予定が整形外科へ連絡されます。

以上によりスムーズに、そして安全に、何よりも患者の治療アウトカムが良いとされている早期手術が実現します。

この流れを日本で実現することは現時点では困難に思われますが、日本の医療状況に合わせながら、少しでもこのようなマネージメントを行えるように改善していきたいと考えています。

 

Mölndal Hospitalは整形外科外傷治療の第一線ですが、基礎研究や歩行解析などの研究もしっかり行われており、その実際についても見学させてもらいました。

 

 

Sahlgrenska University Hospitalの見学もでき、歴史的な建造物、そしてMRIも撮影可能なHybrid Operating Roomも見学させてもらいました。日本にはもっと先進的な手術室があるのではないかと質問を受けましたが、Sahlgrenska University Hospitalは同等もしくはそれ以上の設備ではないかと感じました。

私のpresentationは当院の大腿骨近位部骨折の治療について、そして骨粗鬆症リエゾンサービスについてでした。

Swedenでは骨粗鬆症治療の首座は骨粗鬆症専門医であり、整形外科医である私が骨粗鬆症治療に関わっていることについて、骨粗鬆症治療は整形外科がやらなくてもいいのではないかとの質問がありました。合理性を考えると、納得はできることではありますが、日本では整形外科として骨粗鬆症リエゾンサービスの先頭となり骨折予防をすすめていきたいと思っています。

骨粗鬆症外来の見学も行いました。

看護師による問診から、骨粗鬆症専門医のDXAを含めた検査の必要性の有無、そして薬物治療の選択。DXA撮影時に全脊椎の側面像も撮影し新規圧迫骨折の有無を確認、放射線技師によるFRAXの算出。

医療事務による電話でのfollow up。人工関節のregistryのように骨折に関してもregistryがはじまっています。国民番号を用いた管理で、その中に骨粗鬆症治療についても登録されています。どれもが、我々の行っている骨折二次予防の先を行っている印象でした。

救急外来のシステムに関しても、合理的でした。患者は診察室で待機し、医師が移動して診察します。カルテ記載はvoice recorderで行っていました。

Dr. Michael Ullman(OTCのSweden会長)には、このcourseのHostをして頂いただけではなく、車でのGöteborg市内案内、さらにはOTCバッジまで頂けたことに大変感謝しております。

最後に、非常に親切に、わかりやすい英語で案内してくださったMölndal Hospitalの先生方、このような機会を与えてくださったJABO関係各位、このcourseでご一緒させていただいた阪堺病院の新熊孝文先生、同行現地スタッフとして支えてくれたハンソン・イノべーション 株式会社の大野様、快く送り出してくれたさんむ医療センターの先生方に心より御礼申し上げます。