千葉大学フロンティア医工学センター教授就任にあたって

更新日 2020.7.1

千葉大学フロンティア医工学センター 教授
折田純久(H16年卒)

令和2年(2020年)7月1日をもちまして,千葉大学フロンティア医工学センターの教授を拝命することとなりました.同センターは,時代とともに絶え間なく変化する医療環境に柔軟に対応しながら医療に貢献する医学/工学の域を超えた医工学の研究機関として平成15年(2003年)に設立された集学的・学際的機関です(https://www.cfme.chiba-u.jp).

今回の就任にあたりこれまで千葉大学整形外科ならびに先端脊椎関節機能再建医学講座にてご指導賜りました大鳥精司教授,守屋秀繁名誉教授,高橋和久名誉教授をはじめ同門の先生方にこの場をお借りして深謝申し上げます.

 

私は東京大学工学部精密機械工学科(1998年3月卒業),および東京大学大学院精密機械工学科修士課程(2000年3月修了)にて教養課程含む計6年間にわたり医用精密工学の研究に従事いたしました.具体的には,腹腔鏡操作ロボットや術前MRI画像に基づく脳腫瘍ナビゲーションシステム等の開発,リハビリテーション現場における歩行介助・移送システムの開発に携わっております.その経過で大阪大学整形外科の股関節班,および東京大学整形外科の先生方とも交流する機会がありましたが,興味は持っていたものの後に自分が医学部に入学しさらに整形外科医になるとは思いもよりませんでした.

私の人生が転機を迎えることとなったのは,修士課程2年次に非医療職への就職が内定してからも医学への道を諦念しきれず,1999年に首都圏の医学部で初となる千葉大学の医学部3年次学士編入コースを受験したことに始まります.幸いにも学士入学第一期生として,谷口克先生が医学部長を務められていた千葉大学医学部に編入させていただくこととなりました.5名の同期の中でも工学部・機械系出身者は私のみであり,解剖学や生化学・生理学,薬理学など,それまでどっぷりと浸かっていたメカトロニクスやコンピュータプログラミングなどとは全く異なる世界に接する日々が始まり,忙しいながらも新鮮な気持ちで毎日を過ごしていたのを昨日のように覚えています.医学部在学中は第二外科(先端応用外科学)にて肝臓の超音波ガイド下ラジオ波焼灼術(RFA)のナビゲーションシステムの開発に従事させていただいたのに加え,医学生が基礎研究に従事させていただく基礎配属プログラム(現スカラーシッププログラム)では徳久剛史現学長の率いる分化制御学教室において気管上皮の免疫システムの研究に携わらせていただき,改めて生命の奥深さ,興味深さを実感することとなりました.私の編入した千葉大学医学部の学士編入コースはMD-PhDコースと称し,編入の時点で大学院進学までが規定進路として定められていたことから卒業と同時に大学院に入学しつつ,卒後臨床研修スーパーローテーション制度の第一期生として千葉県旭市の国保旭中央病院での初期研修にも並行して臨みました.その後,守屋秀繁名誉教授のお導きにより千葉大学整形外科に入局させていただいた私は大学院生フレッシュマンとして船橋市立医療センターに勤務後,脊椎外科・腰椎グループに所属し神経障害性疼痛を中心とした椎間板性腰痛や関節痛のメカニズム解析を中心とした基礎研究に従事,骨粗鬆化に伴う疼痛の基礎医学的メカニズムの解析にて学位を取得させていただいた後に千葉労災病院での勤務と米国University of California, San Diego (UCSD)留学による基礎研究生活を経て,2012年より文部教官として大学に勤務しております.2018年に同門の先生方の力強いお力添えの元に全国でも希有となる,同門設立の寄附講座である先端脊椎関節機能再建医学講座の設立に携わらせていただき,同講座の特任准教授として特任助教の志賀康浩先生(H18卒)とともに新鮮凍結多血小板血漿にまつわる基礎研究や,低侵襲前方固定術(OLIF)に関する臨床研究を進めて参りました. そして今回,縁あって千葉大学フロンティア医工学センターの教授職を拝命することとなりました.

 

整形外科と工学の相性はもともと良好であり,運動器の持つダイナミクスやバイオメカニクス,組織学的特性や神経系の電気学的性質など,医工学連携のテーマには枚挙に暇がありません.また,AI,ロボティクス,ウェアラブル端末開発など,現代のテクノロジーを応用することで実現することが可能なテーマはいくつもあります.

一方で医工学は単なる「医学+工学」ではなく,両分野のバランスの取れた融合が重要となります.しかしながらいずれかの出身ではどうしても専門分野に偏らざるを得ず,「医師の目指す目標は壮大すぎて実現しにくい」,はたまた「エンジニアの作るモノは実臨床では応用しにくい」などの齟齬が生じてしまうことも多々あります.

今回フロンティア医工学センターの教授を拝命し,すでに同センターの教授でいらっしゃる鈴木昌彦先生(S60卒)のご指導も賜りつつ,微力ではございますがエンジニア出身の整形外科医として両分野の間のバランスを取り持ちながら実地臨床で応用・実現可能な真の医工学連携を目指して精進していきたく存じます.整形外科医・脊椎外科医としての活動と研鑽は引き続き継続して参る所存ですので,同門の先生方の変わらぬご指導ご鞭撻を賜るとともに「こんな物ができないか」「こんなことができないか」等と行ったご提案や共同研究のお問い合わせもぜひお寄せいただければと存じます.また,医工学に興味がある若い先生の参入も心よりお待ちしております.

 

つきましては,今後も同門の先生方の引き続くご指導ご鞭撻のほど何卒よろしくお願い申し上げます.