小郡第一総合病院留学記

更新日 2021.3.30

平成23年卒 大原建

 

 この度2021年1月〜3月の3ヶ月間、山口県の小郡第一総合病院へ短期臨床留学をさせていただいたのでご報告させていただきます。

 

 小郡第一総合病院は山口県山口市にある182床の総合病院です。整形外科には脊椎・関節含め全ての分野の専門医が在籍していますが、最大の特徴は腕神経叢損傷の再建手術を数多く行っているところです。統括院長である土井先生は遊離薄筋移植でのDouble Free Muscle Transfer法 (DFMT法,Doi法)を開発されたことで有名です。これは腕神経叢全型麻痺(C5~T1全ての麻痺)の患者に対し、両大腿から血管柄・神経付きの薄筋を使用し、2回の筋肉移植と神経移行などの付随手術により肩・肘・手指機能を再建するという手技です。

 私は腕神経叢損傷患者の診療の経験がほぼなく、またその複雑な病態から強い苦手意識を持っておりました。実際の診療を勉強したいという気持ちから、留学を希望しました。

 留学生は国内外から受け入れており、単身での留学となりましたが住居や家具家電の手配などもしていただき、研修に集中できる環境で迎い入れていただきました。

 

 私は手外科チームに所属し、基本的には腕神経叢損傷を含む手外科手術の助手、外来見学をメインに行い勉強させていただきました。到着した週にすでに2件腕神経叢損傷の手術(1件神経移行、1件遊離薄筋移植)が組まれ、さらに一般手外科手術も多く予定されておりました。

 

 腕神経叢損傷の患者さんは全国から紹介されてきます。まずはその地域の病院で急性期加療を受け、落ち着いたところで紹介受診となります。身体診察、画像、電気生理学的検査所見などから損傷レベルや麻痺型(全型、上位型、下位型など)を診断していきますが、その病態は患者ごとに様々であり、慎重に診断し手術適応や方法を検討していきます。とても驚いたのが、多くの経験をされているにも関わらず手術前日まで細かい術式をディスカッションしながら術式を決定しており、その病態の複雑さや常に最適な治療を求める姿勢を強く感じました。また術中も神経刺激などで反応を見ながら病態を把握されていました。外傷で瘢痕となった腕神経叢をきれいに展開されている手技もとても印象的でした。

 また手外科チームには4人のマイクロサージャンがいて、遊離筋移植の時にはレシピエント神経・血管の展開と薄筋採取を2チームに分かれ同時に行い、慣れた流れで手術が進んでいく姿に感銘を受けました。

 

 術後は遠方から来ている人が多いこともあり、長期リハビリ入院となります。また退院後も通院リハをするため山口にアパートを借りる人や、リハビリだけのために再入院する人もいました。それだけリハビリは重要であり、リハビリスタッフなどコメディカルが腕神経損傷の管理に非常に慣れていることにも驚きました。病院全体で患者をみていく体制が整っていると感じました。

 

 外傷性の腕神経叢損傷のみならず、小児の急性弛緩性脊髄炎に伴う麻痺への再建の手術も見させていただきました。その他にも、指尖部切断指の動脈吻合、リンパ管静脈吻合、足趾移植などのマイクロサージャリー手術や、一般手外科手術、一般外傷手術も多く見させていただきました。細かい展開の際は4.0倍の拡大鏡を使用されており(私は普段2.5倍を使用)、その丁寧で正確な手術手技が印象的でした。

 

 外来見学やカンファへの参加も非常に勉強になりました。カンファでは毎回熱いディスカッションが行われ、プレゼンに望むフェローも英語論文や教科書での事前勉強は必須とされており、科全体のアカデミックな姿勢を肌で感じることができました。

 

 

 山口県は観光名所が多く、CMにも使用された絶景スポットである角島大橋、123基の鳥居が並ぶ元乃隅神社、松下村塾など城下町として歴史がある萩、新鮮な魚が堪能できる下関の唐戸市場などがあり、時間を見つけて観光に行かせていただきました。またフグを始め瀬戸内海や九州で捕れた海の幸、広島の牡蠣なども最寄りのスーパーで購入することができ、堪能させていただきました。

 

 3ヶ月という期間はあっという間に過ぎてしまいましたが、非常に濃厚なかけがえのない経験をさせていただきました。この経験を日々の診療に活かせるよう、努力を続けていきたいと思っております。最後になりましたが、大学院生という立場でありながら3ヶ月間の留学を快諾し送り出して下さいました大鳥教授、松浦先生、穴を開け非常にご迷惑をかけた手外科グループの皆様、大学病院諸先生方、関係者の方々に心より感謝申し上げます。本当にありがとうございました。

  • 写真1 病院の外観
  • 写真2 絶景スポットの一つである角島大橋
  • 写真3 最終日、整形外科の先生方と