スポーツの国際機関でインターンシップを始めました

更新日 2021.6.10

スポーツの国際機関でインターンシップを始めました

平成22年卒 貞升彩

 

2020年秋より、欧州委員会の大学院Erasmus Mundus Joint Master of Arts in Sports Ethics and Integrity (MAiSI)に留学しております、平成22年卒の貞升彩です。今月より、World Athletics (世界陸連)とインターンシップ契約を結び、その独立機関であるAthletics Integrity Unit (AIU)でインターン生として働き始めました。オフィスのあるモナコに滞在して働くことを楽しみにしていたのですが、残念ながらリモートワークになってしまいました。先方の都合により、リモートなら学業と両立できるということで、まだ夏休み前ですが、授業をうけながら空いている時間で仕事をする生活を始めました。

 

ここ数年で、各国際競技団体より独立化が進んでいるIntegrity Unitとは何か、またAIUの特色について書きたいと思います。

 

Integrity Unitは一言で言うとスポーツの不正を取り締まるところです。スポーツ界の不正は、主なものとしてドーピングや八百長、賄賂があげられます。ドーピングについて考えてみると、ルール作りはWADAが主に担っており立法の役割を果たしています。今までは行政と司法の役割を各国際競技団体が果たしておりましたが、忖度や癒着などにより司法にあたるIntegrity Unitの客観性や独立性があやふやになってきました。あとは、医科学の進歩やグローバル化とともにドーピング手法が高度化しており、それに対応するため専門家を集約しなくてはならず、一方で大会などの妨げにならないように迅速かつ的確な判断を下す必要もあり、テニス、クリケット、バイアスロンなどはじめ昨今独立化が顕著です。

 

不正の種類は競技により異なります。これまで大学院で、ベルギーテニス協会、International Tennis Integrity Agency、それから国際刑事警察機構(インターポール)などテニスでの不正を取り締まっている国際機関の授業を多く受けました。これらの機関や国連(特に国連薬物犯罪事務所。卒業生も数名働いています。)は国や言語を越え協力をし、八百長やマネーロンダリングを働く末端のアスリートや関係者、八百長の発案者、八百長を仲介するSport betting company、マフィアのフロント企業、元締めのマフィアなど、世界中に散らばりどんどん高度化していっている犯罪集団をとらえるそうです。映画みたいな話で、私はいまいちピンと来ないのですが、テニスではこのように不正の多くが八百長で、数年以内に吸収されるそうですがアンチドーピング部署はまだ国際テニス連盟内に残っています。インターポールの2014年から2020年までのデータによると、八百長の件数の半分がサッカー、その次にクリケット、テニスと続きます。実際試合をやっていないのにやったように見せかける”Ghost match” ”Fake match”も、コロナ禍で増えています。このように、テニスやサッカーのインテグリティを考えるときは犯罪学や法学の知識を求められる傾向にあります。

 

一方で、世界陸連から独立したAIUで取り扱う案件はドーピング、年齢詐称、人身売買、使用する道具・機器の不正になります。陸上は記録競技であり、不正が個人の記録と勝利に直結しやすくそれにより名声や金銭が手に入るためです。特に前者二つに関しては医科学的な要素が重要となります。年齢詐称や人身売買に関しては決して他人事ではなく、週刊文春が数年前に国内のマラソン競合校に在籍するアフリカ出身選手の年齢詐称疑惑について報じていますが、こちらも深刻な問題です。地域柄、住民票や戸籍という制度がないところは世界には多くあり、どんなにAI、手根骨や歯牙の検査、血液・遺伝子情報を駆使しても、究極のところ、学年の境になる12月31日生まれと1月1日生まれは客観的に区別をつけることはできません。少なくともそれを逆手にとるような不正行為は減らしたいのですが、食べるのすら難しい、貧しい環境ではスポーツが唯一の生きる手段だったりもするため、スポーツ以外の、貧困問題に取り組む国際機関などと共同でプロジェクトを進めることも必要です。やはり行きつくところはSpirit of sportの重要性を説くなどの教育になります。もちろん教育にも限界はありますが、なるべく早く、子供の時期から導入する試みがなされています。

 

もちろん短い期間のインターンシップで大きなことができるわけではありませんが、サッカー選手のドーピング検査に今まで何回か付き添いましたが、対戦相手の人たちに何かされたらどうしようと不安になったり、異国の地で夜遅くまで長い時間待ったり、正直いい思い出はないのですが、そうやって経験してきたドーピング検査にはその向こうがあって、そこで働く人たちが初めて見えて、それだけでも採用してもらえてよかったなと思います。

 

そしてこのインターンシップ期間に私が行う仕事は、AIUと陸連の持っているすべてのデータやネット(時にSNS)の情報から、まだ調査や研究が不十分なフィールド競技(跳躍競技と投てき競技の合計8種目)について、ドーピングの傾向、ドーピングしそうな選手、要注意国に認定されている国々のドーピング事情を洗い出すことです。とても貴重な経験であり、楽しんで取り組んでいければと思います。

 

読んでくださりありがとうございます。