公益財団法人 ロームミュージックファンデーション「2022年度 音楽に関する研究への助成」採択のご報告

更新日 2022.9.12

平成19年卒 金塚 彩

 このたび、公益財団法人 ロームミュージックファンデーション「2022年度 音楽に関する研究への助成」(250万円)に採択されましたので、ご報告申し上げます。助成課題は、「三次元反射式モーションキャプチャシステムを用いた音楽家の演奏動作解析」です。

 

 本研究の目的は、音楽家の演奏動作を三次元的に分析してその特性を理解し、パフォーミングアーツ医学(Performing Arts Medicine; PAM)分野の診療の一助となる根拠を得ることです。今回の対象楽器には、演奏人口が多く、演奏肢位が比較的左右対称で計測が容易なピアノを選びました。被験者となる音楽家の方には、モーションキャプチャの反射マーカーとワイヤレス筋電図計センサを装着し、演奏動作を行なっていただきます。演奏課題は、事前に定義づけした18種類の基本テクニックと自由演奏1曲としています。基本テクニック18種類は数小節程度のシンプルな内容で、これらを右手と左手を別々に計測します。計測中に装着していただくマーカーは、演奏を邪魔しないように極小サイズ(3.5mm)のものを使用し、HAWK(Hand and Wrist Kinematics)テクニックに準拠したアルゴリズムで各関節角度を算出することを検討しています。

 

 このような研究を立案した背景には、「けがからの復帰リハビリテーションにおいて考慮すべき演奏動作に必要な各関節の可動域は?」「ピアニストのHeberden結節や母指CM関節症の関節固定術における至適角度は?」などといった、外来診療で出会ういくつものClinical Questionの存在があります。これらの疑問を解決する糸口となるのが、本研究のような演奏基本動作の三次元的分析であると考えています。歩行解析等と異なり上肢の動作解析に用いる計算式は確立したものがないため、試行錯誤を要するなど課題は多いですが、本助成金に採用されたことに感謝し、研究を進めて参りたいと思います。また本研究の成果は、令和4年度より医学部4年生のクリニカルクラークシップに導入する「静脈穿刺・動作解析実習」から得られる知見と融合し、「手技の熟練」に関するヒントを得られる可能性にも期待しています。

 

 

 研究プロトコルにおける音楽的要素、すなわち基本テクニックの定義づけや楽譜作成については、英国ギルドホール音楽院教授の小川典子先生のご助言・ご協力を賜りました。ご自身もけがからピアノ演奏に復帰された経験をお持ちで、本研究の意義に強く共感してくださり、被験者にもなっていただきました。このように研究の遂行には音楽家の方々のご協力が必要であり、丁寧に進めていきたいと思います。現在、東京音楽大学との共同研究契約締結の手続きを進めているところで、音楽大学との友好的なパートナーシップを築きながら、研究も活性化したいと考えています。

写真1. 三次元的動作解析システム

 

写真2. ピアノ演奏動作解析

 

写真3. データの解析