東京音楽大学メディカルチェック2023実施のご報告

更新日 2023.11.14

平成19年卒 
金塚 彩

2023年10月13日、東京音楽大学ピアノ科にてメディカルチェックを実施いたしましたのでご報告いたします。

 

まず本メディカルチェックの実現には、英国留学中に出会ったピアニスト小川 典子先生、そして石井 克典先生のご尽力がありました。2022年5月に東京音楽大学の武石 みどり学長代行(当時)、石井 克典教授、小川 典子特任教授、石井 由起子事務局長と、千葉大学整形外科大鳥 精司教授、松浦 佑介先生、北條 篤志先生と私との間でお話しをする機会をいただき、音楽家をめぐる医学、パフォーミングアーツ医学を、アスリートのスポーツ医学と同様に発展させるべく、互いに協力するという合意に至りました。その後2022年7月、2023年6月と、ピアノ科にて学生向けの講義と症状相談会を行い、交流を深めて参りました。

 

今回は、医師、作業療法士、医学生から成る7名のメディカルチームで訪問しました。手外科グループの金塚 彩、院生の岩崎 龍太郎先生、小林 樹先生、作業療法士の森田 光生OT士長、近藤 敬一OT、東京大学医学部5年の藤井 捺希さん、千葉大学医学部1年の田中 千聖さんが参加しました。作業療法士の先生には、手のサイズや握力やピンチ力計測、感覚機能検査のほか、BAPAM(British Association for Performing Arts Medicine)推奨のウォーミングアップエクササイズを行うワークショップを担当していただきました。PAMに興味がある医学生のお二人には、医師の診察の見学のほか、計測作業をお手伝いしていただきました。作業療法士の先生のご参加によりメディカルチェックの内容が多面的になっただけでなく、実臨床でも連携しやすい土壌が生まれたと思います。そして若い医学生2人の参加は、とても嬉しく感慨深いものでした。ご参加いただく音楽家のみなさまにとって良い時間になるよう配慮しながら、来年度以降も継続して参ります。

 

以下にメディカルチームに参加した3名からの感想文を掲載いたします。

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はじめに、今回このメディカルチェックに参加させていただけたことを大変嬉しく思います。

今回、金塚先生の診察の様子を見学させていただけたことで、実際の音楽家の方々がどのような悩みを抱えていらっしゃるのかという生の声を伺うことができました。さらにはその対処法も人によって様々で、本を読むだけでは得ることのできない視点も知ることができ、非常に貴重な経験をすることができたと考えています。また、OTの先生が計測された結果を記録するお手伝いもさせていただきました。それに際して、音楽家の方々にはこのような傾向が見られるのだろうか、などの考えも生まれ、大変興味深い機会でした。

今回の経験を通して、この分野に携わりたいという気持ちがより一層強くなったと感じています。未熟な点も多かったと思いますが、このプロジェクトに誘ってくださった金塚先生をはじめとする先生方に、心より感謝いたします。

 

千葉大学医学部1年 田中 千聖

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今回、私は東京音大ピアノ科講師の方々へのメディカルチェックに参加させていただきました。

千葉大の先生の診察ではみなさまかなりじっくりと相談されており、少し話を聞かせていただくと東京音大の指導者レベルの方でも手の障害や違和感についてなどいろいろと悩まれており、それらの予防や対応、適切な練習法などをきちんと相談できる相手がおらず学生さんともども困っていらっしゃることがわかりました。医療的な面からのアドバイスを受け、参考になったと喜ばれている先生も多かったように思います。

今回が初めての取り組みということでしたが、今後継続的に相談を聞いたり、他の楽器奏者の方へのアプローチをしたりと大きく広げていける素晴らしい活動ではないかと思います。私自身音楽家医療を志しており大変勉強になりましたので、また同様の機会がありましたらぜひお手伝いさせていただきたいです。

 

東京大学医学部5年 藤井 捺希

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今回、ピアノ演奏家への運動指導の機会をいただいた。ウォーミングアップは、日本アスレティックトレーニング学会によると「ウォーミングアップとは「温める」や「準備運動をする」という意味であり、競技やトレーニングの前に実施される準備段階の運動のことです。競技力向上と傷害予防のために行われます。ウォーミングアップによる筋温、体温、血流、心拍数、呼吸数、関節可動域、および筋肉間の協調性の増加(複数の筋肉の連動性)、ならびに神経系の活性化がパフォーマンスに良い影響を与えます。」1)としています。

ただ、常識的なイメージとして、野球やサッカーなどのハイパフォーマンススポーツなどの実施前に行うものであって、ピアノ演奏前に実施するという発想自体を持っていませんでした。金塚先生より、ご依頼いただき、British Association for Performing Arts Medicine(BAPAM)公式の音楽家のウォーミングアップ2)を翻訳、一部改変して実施いたしました。

 実際の取り組みは、それ以外にも、手指、手関節などに関する解剖や運動の話も交えながら、根拠を持って運動する重要性をレクチャーしながら実施させていただきました。意外と言っては、なんですが、とても反響が高く、多くのご質問をいただきながら楽しく実施することができました。中には「虫様筋の働きに関して・・・」などこちらも驚くほどマニアックな知識をお持ちの方もいらっしゃいました。ピアノ演奏家の方々は、ご自身の身体に関して、とても注意深く、価値を持って興味を示されていると感じました。

 身体活動のメッツ表3)によると、ピアノ演奏とは2.3METsでおおよそ車の運転と同程度の活動と定義されていますが、上肢にフォーカスするとこれ以上ないぐらいの指のハイパフォーマンス活動と思われます。当然ですが、指を動かすにも筋肉が重要です。このような準備運動がジストニアをはじめとした音楽家のパフォーマンス低下の原因予防となることを期待してしまいます。

 

参考資料

  • 日本アスレティックトレーニング協会H Pより引用. https://js-at.jp/info/glossary_info?ginfo=21
  • British Association for Performing Arts Medicine2019-2020:Authors:Drusilla Redman at al.
  • 2011 Compendium of Physical Activities: A Second Update of Codes and MET Values.:Med Sci Sports Exerc. 2011, 43(8):1575-1581.

 

リハビリテーション部 作業療法士 森田 光生

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東京音楽大学中目黒キャンパス