カンボジア医療支援報告記

更新日 2024.5.5

頚椎班
古矢丈雄 (H13卒)

 2024年2月14日-18日の日程で国際頚椎学会日本機構のプロジェクトにてカンボジアに対する脊椎脊髄領域における医療支援を行って参りましたのでご報告致します。

 今回は2019年以来、実に5年ぶりの現地訪問となります。COVID-19流行の影響で直接の現地に赴いての交流・支援が中断しておりましたが、この度、COVID-19の鎮静を待って、先方の強い希望もあり日本からの訪問支援活動が再開となりました。今回の訪問は鷲見正敏先生 (真星病院名誉院長)、湯川泰紹先生 (名古屋共立病院脊椎脊髄外科センター長)、宮本裕史先生 (神戸労災病院整形外科部長)、青山剛先生 (手稲渓仁会病院整形外科主任医長)、古矢の5名での訪問となりました (図1)。

 今回の訪問ではセミナー開催、手術見学および病院見学の3つを計画、遂行して参りました。

 セミナーは新病院となりましたPreah Kossamak Hospitalにて、50名以上の現地の先生が参加され開催されました (図2-4)。病院長、Sim Sokchanカンボジア脳神経外科学会理事長、鷲見先生の挨拶の後、日本からの訪問団が登壇し、若手医師をターゲットとした頚椎領域の診断から治療までの6つの講演が行われました。私は中心性頚髄損傷と非骨傷性頚髄損傷について講演致しました。若手も含め冒頭から積極的な質問が多数みられ、カンボジアの医師の意気込みが感じられました。日本の先生方の講演の後、カンボジア側から軸椎歯突起骨折に対する前方螺子固定に関するCase seriesの発表がありました。研究への組み入れ患者の平均年齢は若く、日本とは異なる疾患罹患背景でありましたが、前方螺子固定の利点と欠点を考察に含め大変しっかりとご発表されておりました。続いてカンボジア側の若手-中堅医師からの症例報告がありました。限られた医療資源の中、頚椎損傷に対し前後合併手術や頚椎椎弓根スクリューを用いた脱臼整復・矯正固定術を施行しておりました。また、脊髄腫瘍の手術例の発表も複数あり、術式などについて大変活発な討論が行われました。質疑では術後患者のフォローアップについて話題が挙がりました。多くの患者は首都プノンペンから遠く離れた村や町から何日もかけて受診するようでした。術後、地元に戻った後の定期的な受診はなかなか困難のようでしたが、電話で症状を問い合わせたり、患者の歩行状態や運動機能を撮影した動画を送付してもらうことで患者の術後経過を丁寧にフォローしておりました。5年前は無かった術後患者をフォローする習慣が芽生えてきており、治療に対するカンボジアの先生方の姿勢の変化を感じました。セミナーの途中で模擬骨を用いたハンズオンセミナーを行いました。4つの班に分かれ、それぞれ、(1)電動ドリルを用いた椎弓形成術、(2)頚椎椎弓根スクリュー挿入法、(3)頚椎外側塊スクリュー挿入法、(4)頚椎前方除圧固定術の手術手技についてレクチャーしました。こちらも大変盛況で、参加の若手先生から積極的な質問を多数いただきながら、大変充実したワークショップとなりました。実際に手を動かしながらの実習が盛り上がるのは万国共通のようでございます。

 手術見学では我々の訪問に合わせ、頚髄症性脊髄症に対する頚椎椎弓形成術を用意してくださりました。手術は5年前に来日したVannaroth Chor医師が助手を務め、若手医師が執刀されておりました。我々訪問団の見学という重圧もあったとは思いますが、大きなトラブルなく遂行されておりました。手術室は清潔で、手術を遂行するのに必要な必要最低限の医療機器は揃っておりました。病院も大変きれいになりましたが、医療機器も徐々に充足しつつあると感じました。

 期間中、いくつかの病院を見学させていただく機会がありました。Preah Kossamak Hospitalほか、いくつかの病院は最近新病院を建てたり、新しい棟を増設したり、建築ラッシュが来ているようでした。貧富の差は問題となっているが、それをなんとか解決していくために現場医師が東奔西走しているようでした。診療科に割り振られた予算から、貧しい患者さんのインプラント購入費用を工面したり、貧しい患者さんは大部屋で入院費を無償とするなどの工夫を行っておりました。また、一部の医師はグループで出資してプライベートクリニックを総合病院での診療と並行して経営しておりました。以前日本で研修を積んだ医師らは内視鏡技術に磨きをかけ、総合病院での診療に加え、クリニックにて低侵襲手術を提供しておりました。

 町は活気があり、エネルギーに溢れておりました。脊椎外科を取り巻く環境としては5年前と比較しハード面はかなり整備されつつありますが、診断や治療計画の立案、手術手技の詳細についてはまだまだ我々がサポートできることも多いと感じ、先方も我々のサポートに期待しているようでした。カンボジアの医師は自国の医療の発展を常に考えて行動している点が印象的でした。向上心を持った若手が多数スタンバイしており、日本での研修ができる日を待ち望んでおります。こちらも今回の訪問で彼らからパッションやパワーをいただきました。両国の脊椎外科医にとって大変有意義な訪問であったと思います。

 最後になりますが、留守中お世話になりました頚椎脊髄班先生、プログラム参加のご許可を快諾いただきました大鳥精司教授に御礼申し上げます。本事業にご理解とご支援をいただきました清水敬国際頚椎学会日本機構親理事長、三原久範同前事務局長、國府田正雄同事務局長に深謝いたします。我々を送り出してくださいましたアジア・パシフィック委員会の高畑雅彦委員長、委員の皆様に深謝いたします。また、会員皆様、ご寄付をしてくださっております企業の皆様にもこの場を借りて御礼申し上げます。本当にありがとうございました。

 

写真1 今回の訪問団。左から古矢、青山、宮本、鷲見、湯川 (敬称略)。右端はPhearum Huoy (第一回のFellow)

写真2 カンファレンスポスター

写真3 カンファレンス集合写真

写真4  カンファレンスの様子

写真5-6 ハンズオンセミナー

写真7 ハンズオンセミナー集合写真

写真8-9 王宮散策

写真10-11 ローカル露店散策

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