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第47回CSRS (Cervical Spine Research Society) Annual meeting参加記

更新日 2019.12.28

平成13年卒
古矢 丈雄

 2019年11月21日~23日の日程で米国New York州New York Cityにて開催された第47回CSRS (Cervical Spine Research Society) Annual meeting (国際頚椎機構年次会合)に出席いたしましたので報告します。会場はTimes Squareにあるホテルでした (1)。これまで避暑地での開催が多い本学会でしたが、今回はNew York City、しかも、その中心部での開催です。学会はちょうどThanks giving dayの前週であり、またChristmasも近いこともあり、会場から一歩外へ出ると町は大変活気に溢れており、大都会の活力を肌で感じることができた3日間でした。

 

 今回は千葉大および関連施設からは大学の牧聡先生 (H18卒)と私が口演採択をいただき発表して参りました。本学会に出ると頚椎領域の北米でのトレンドが把握できます。主題テーマとして今年は頚髄損傷に対する治療方針および頚椎疾患を有するプロスポーツ選手の治療とスポーツ復帰が挙げられておりました。

 

  1. 頚髄損傷

 ‘Central cord syndrome’に対する治療方針についての発表がいくつかみられました。おそらく略語は「中心性頚髄損傷」となると思いますが、われわれ日本人の考える中心性~とは少し違う疾患群を指しているように感じました。われわれは中心性頚髄損傷を定義する際に、その特徴的な症候学を診て診断しますが、米国では「頚髄損傷のうち上肢症状が優位でかつ脊髄圧迫を伴うもの」ということのようでした。手術ありきで手術時期を議論しているのは我々の治療方針とは大きく異なっており、興味深く拝聴しました。ほか、脊髄損傷に対するステロイドおよび新規薬物療法のレビューや、片側の椎間関節骨折タイプの頚椎損傷に対する治療方針、最近本邦でもよくみるようになったびまん性特発性骨増殖症 (diffuse idiopathic skeletal hyperostosis, DISH,)に対する手術における注意点などがレビューされました。脊髄損傷に対するon goingの治験に関するレビューでは我々のG-CSFの治験も紹介されていました。

 

  1. 人工椎間板

 2椎間に対する10年成績が発表されていました。米国からの発表の多くは、人工椎間板は従来の頚椎前方椎間除圧固定術 (Anterior cervical discectomy and fusion、ACDF)に比べ再手術率が低く、手術成績も良好との趣旨であります。逆に欧州からの発表は固定術との成績の差はあまり無く、かえって椎間関節の関節症進行の問題などもあるという若干その優越性を疑問視する内容でした。我々日本ではまだはじまったばかりですが、欧米や韓国・中国の長期成績を見守りつつ、日本人の頚椎疾患の特徴を踏まえ、我々ならではのPatient selectionで良好な治療成績を出していければよいと思いました。

 

  1. 脊髄症

 牧先生は後弯症に対する固定術の意義、私はK-line (-)型頚椎後縦靭帯骨化症の5年成績を発表致しました。牧先生は大御所TorontoのM. Fehling教授から鋭い質問をいただき、私も座長の先生から核心的な質問をいただき、それぞれ充実した発表となりました。ほかの頚髄症に関する発表では、アメリカ国立衛生研究所 (NIH)のファウンディングサポートを受けた頚椎前方・後方のRCT (Randomized Control Study)に注目が集まっておりました。患者立脚型スコア (SF-36)、周術期費用どちらの視点においても①椎弓形成術、②前方除圧固定術、③後方除圧固定術の順に勝っているという内容でした。後方手術後の嚥下障害に関する川口済生会の坂井顕一郎先生のご発表も、実は後方固定術においても高率に嚥下障害が生じているという興味深い結果でした。

 

  1. 頚椎後弯

 ここ何年かのブームは少し落ち着いたように感じました。臥位と立位で変化しないパラメータを用いた計測法が発表されておりました。また、骨切りにより前弯再建を図る際の合併症や骨切りの至適高位について議論が行われました。

 

  1. 頚椎椎弓根スクリュー

 本学会では定番のテーマとして毎回何かしらの演題があります。安全に挿入するための各施設各術者それぞれの刺入手技の工夫が議論の中心となっています。今回は韓国の先生が外側の端の部分から少し掘り込んだ位置をスタートとするFunnel法の変法を発表されておりました。

 

 以上、学会で私が聴講し印象に残った発表を中心に報告させていただきました。今回は脊椎脊髄班頚椎グループ大学院生の宮本卓弥先生と沖松翔先生にも参加してもらいました。彼らも学会を通じ多くの新しい知識を吸収してくれたものと信じております。

 

 学会は朝早くから始まりますが、1日の終わりも比較的早い時間が設定されております。学会後の夜は、毎年恒例となりました若手日本人会に参加し他大学の先生方と交流を深めました (2, 3)。また、牧・宮本・沖松先生はNBA観戦、ミュージカル鑑賞、私もアポロシアターでミュージックショーを鑑賞し、また早朝と夜にブルックリン橋周辺を散策して参りました (4, 5)。本場アメリカのエンターテイメントとこれぞNew Yorkという景色を楽しみ、日頃の業務の疲れを吹き飛ばして参りました。

 

 最後になりましたが、学会参加・不在をご許可いただきました大鳥精司教授、病棟の留守番を引き受けてくださいました腰椎グループ先生、研修医先生に感謝申し上げます。

  • 図1
  • 図2
  • 図3
  • 図4
  • 図5