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第8回日本舞台医学研究会 講演のご報告

更新日 2022.5.23

平成19年卒 金塚彩

 令和4年3月19日奈良県医師会館にて開催された第8回日本舞台医学(Stage Medicine)研究会(https://www.naramed-u.ac.jp/~stagemedicine/)にて講演して参りましたので、ご報告申し上げます。

 

 今回「英国で学んだPerforming Arts Medicine(PAM)の現状と課題」というタイトルで、留学に至った経緯、独逸・英国で学んだ内容、また帰国後開設したPAM外来で直面している課題等についてお話しさせていただきました。

 

 最近のトピックスとしては、術後や外傷受傷後の演奏復帰リハビリプログラムについて、ピアニストの小川 典子先生(英国ギルドホール音楽院教授・東京音楽大学特任教授)のご協力により、演奏家向けの演奏リハビリ動画を作成いたしました。ピアノの基礎テクニックを18個定義し、5段階の回復期において推奨する練習内容を提示し、いつごろどれくらい弾けていれば良いかを視覚化した動画になっております。演奏家の方々が無理せず安心して取り組めるように、敢えてあまり弾けていない様子での撮影も入れました。今後当PAM外来にて閲覧できるように整備を進めております。

 

 また、演奏障害の程度の指標として、K Score (KS)という尺度を立案しました。これは、受傷直前・疾病罹患前のパフォーマンスを100としたときの現在のパフォーマンス値を、患者さんの主観によってスコア化したもの、と定義しました。診察日やリハ通院日に質問しカルテに記録することで治療経過を追うことができ、医療者と患者さんの課題共有を可能にしてくれる便利なツールとして、日常診療で利用しています。

 

 またフォーカルジストニアの症例においては、当院精神神経科の伊豫 雅臣教授、神経内科の平野 成樹先生、リハビリテーション科の各先生方と連携し、包括的な診療を行なっております。診断、治療に関する国際的なコンセンサスがない中での模索となりますが、少しずつ進めております。

 

 研究面においては、モーションキャプチャーシステムを用いた演奏動作の三次元的解析に着手しております。前述の小川典子先生のご協力により、演奏動作に必要な上肢の各関節可動域の計測や筋電図評価等を行なっております。今後音楽大学との連携を深め、けがや疾病の予防や対策についても検討して参りたいと思います。具体的には、ポータブルエコーを用いたPAM検診の実施を計画しております。

 

 他にも、東京工業大学生命理工学院の藤枝 俊宣准教授、北里大学の永見 智行先生との共同研究として、超伸縮ひずみセンサにAI機械学習を導入したフォーカルジストニアの異常動作検知システムの開発にも取り組んでおります。

 

 本研究会には、憧れの新国立劇場の舞踊芸術監督の吉田 都さん(元・英国ロイヤルバレエ団プリンシパル)のご登壇もあり、同じ舞台に立てたことは一生の思い出となりました。英国ではメディカルチームとバレエ団の連携が緊密であり、日本においてもこのような体制の構築が望まれるとお話しされていました。

 

 パネルディスカッションでは、札幌医科大学整形外科の寺本 篤史先生、東京医科大学整形外科の山本 謙吾教授、学校法人 慈恵大学理事 公益財団法人 運動器の健康・日本協会理事長の丸毛 啓史先生に並び、若手代表として討論に参加させていただきました。壇上の先生のみならず、会場の先生方から、熱いエールの言葉の数々を頂戴し、感無量でした。

 

 そもそも本研究会との出会いは、2019年に山口 智志准教授に「こんな研究会があるよ、先生興味があるんじゃないかな」と誘っていただき、第6回日本舞台医学研究会に参加したことがきっかけになります。その会場で声をかけてくださったのが、奈良県立医科大学整形外科の田中 康仁教授でした。「今度奈良医大が主催する折には、何か話してください」とにっこりされました。当時はまさか本当のことには思えませんでしたが、その後実際に講演依頼のご連絡をいただいたときに、感動して胸が熱くなりました。私の草の根活動に興味を持っていただき、そして大きな舞台を与えてくださったことに、深く感謝申し上げます。

 

 ようやく研究の環境が整ってきましたので、引き続き邁進したいと思います。特に三次元的動作解析システムを用いた研究では、手外科医師がダイレクトに興味を持てる内容での研究も展開して参りたいと思います。

 

・研究会プログラム内容

・質疑応答

・パネルディスカッション

・吉田都さんと

・山本謙吾教授より吉田都さんからの色紙を授与されました

・英国のメディカルサポートについて語る

・集合写真

・小川典子さんの演奏動作解析