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「中国政府による日本の若手科学技術関係者の招へいプログラム」に参加して

更新日 2019.7.10

千葉県がんセンター(H24年卒)
木下 英幸

 2019年6月24日より29日まで「中国政府による日本の若手科学技術関係者の招へいプログラム」にて北京および福州を訪問し、中国の最先端のイノベーションの現状を学んでまいりましたのでご報告させていただきます。

 

 このプログラムは科学技術振興機構(JST)が2014年度に立ち上げた「日本・アジア青少年サイエンス交流事業」のプログラムの一環であり、アジアを中心とする青少年を短期に各国の政府、大学及び研究機関等に派遣し、アジア各国の科学技術の発展を目的としたものであります。

 

 まずは6月24日より26日まで北京を訪れ、清華大学および中関村モデル地区を訪問させていただきました。清華大学は学部生および修士・博士の大学院生を含めて46,200人在籍するほど規模の大きい大学であり、北京大学と並んで中国屈指の高名な大学であります。さらにQS世界ランキングで17位であり、他の異なる世界大学ランキングでもその順位は高く、世界トップクラスの科学技術を誇る大学といっても過言ではありません。研究費も約900億円と日本の各大学と比較しても桁違いであり、他にも特許数や3大科学誌への採択率および引用率なども世界トップクラスであり、自校のプレゼンテーションの内容は驚愕するばかりでした。また清華大学の卒業生が産学連携を積極的に推進しており、それが清華大学を勢いづけておりました。一方、中関村モデル地区は中国初の国家ハイテク産業開発区として大きな成功を収めており、国内外から注目を集める「中国のシリコンバレー」と呼ばれている地区です。中関村モデル地区にはハイテク産業が22,013社あり、企業の総収入が約87兆6600億円に達しており、さらにここのハイテク産業は過去10年以上の間、年間成長率25%以上を維持しており、現在でも中国国内で最も起業がさかんで、中国の科学技術を牽引している地区でした。起業を志す優秀な若者を国家および大企業が全力でバックアップするシステムがこの地区を活性化させており、それにより優秀な若者は「失敗を恐れない姿勢」で起業し、成功させ、さらに若者の起業を推進するといういわゆる正のスパイラルができあがっておりました。それらは現在の中国の勢いそのものであり、基礎研究にも従事したいと考えている小生にも非常に刺激となりました。

 

 6月27日から28日は2組(福州もしくは太原)に分かれての行動となり、我々は福建省の省都である福州を訪れ、福州大学およびサイエンスパークや様々な企業を訪問させていただきました。福州大学も上記2大学に負けず、国家「双一流(世界一流大学・一流学科)」構築の対象校であり、広大な敷地に35,000人の学部生・大学院生を抱え、世界トップクラスの研究を行っていおりました。近年、腫瘍領域の人工関節においても3Dプリンターによるインプラント開発が注目されておりますが、サイエンスパークでの現地の企業訪問にて、金属の3Dプリンター装置を初めて拝見することができ非常に興奮しました。また、漢方の大企業を訪問したり、三坊七巷という現地の古い町並みの観光地散策にて中国の古い歴史に触れたりすることで様々な観点から中国を身近に感じることができました。三坊七巷の漢方医院と漢方薬局に偶然迷い込んでしまい、現地の薬剤師が漢方から秤量し調剤している姿に興奮し、激写しているところを強面の警備員につまみ出されたのもいい思い出です。

 

 中国と日本の大学および学生の違いですが、中国の大学の授業料は日本の1/10程度であり、また学生の家賃も安いために、学生は本分である勉学および研究に没頭できる環境にあることがまず大きく異なりました。これは現在の日本の学生を取り巻く環境の問題でもあり、早急に対応しないと中国にさらに先を越されるのではないかと危惧するほどです。また、全てを通して考えさせられることは、中国が国家レベルで科学技術を推進するということも然りですが、何よりも優秀な若手技術者の育成に力を入れているということです。起業の方法を大学生の頃から一から教えるとともに体験させ、さらに留学から帰国した優秀な若手技術者に対し、サイエンスパークや大学において企業からも最大限のバックアップをすることによって、近年の中国の発展があるのだろうと感じました。

 

 ただ、今回の視察では近年の都市部の科学技術の発展という中国の「光」の部分のみを見ている可能性を常に考えなくてはならないと感じました。いわゆる農村部や都市部の危険地域などは視察しておらず(夜に少し怪しいお店に迷い込んでしまいましたが)、今後再度訪中し、それらの部分も間近に見て、体験しその上で「何よりも科学技術を推進することのメリットとデメリット」を総合的に判断することで今後の千葉大学および日本のあり方を考えなくてはならないと痛感しました。

 

 また、この一週間の視察において、日本の科学技術の推進を担う若手の方々と異業種交流にて仲良くなれた事自体も非常に有意義なことでした。今後も機会があれば若手の行政官および研究者と交流させていただき、千葉大学や医学の発展はもちろん、日本の科学技術発展のために協力していければと思います。

 

 今後は千葉大学整形外科の医療レベルおよび研究レベルを底上げするべく、小生自身も精進させていただく所存です。今回の刺激にあふれた中国最先端技術の視察を糧とし努力させていただきますので、今後ともご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い申しあげます。

 

 最後になりますが、このような素晴らしい機会を提供していただきました、中国および日本政府の関係者の皆様、および一週間一緒に現地を回っていただきました日本の若手行政官、若手研究者の方々誠にありがとうございました。何より、この素晴らしいプログラムをご推薦いただきました山縣正庸先生、大鳥精司教授に心より感謝申し上げます。また不在中に一週間千葉県がんセンターの病棟を守っていただき、快く送り出していただきました、石井先生、米本先生、鴨田先生、萩原先生、塚西先生、本当にありがとうございました。研究にご興味のある若手の先生方は来年度からもアプライされることをお勧めいたします。

  • 写真1. 福州・太原組 集合写真
  • 写真2. 福州組 集合写真