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2019年度 台湾Travelling fellowship参加記

更新日 2019.11.10

吉野 謙輔 (H21卒)

 

 2019年10月28日から11月8日まで台湾の国立台湾大学醫学院付設醫院(National Taiwan University Hospital; NTUH)および林口長庚紀念醫院(Chang Gung Memorial Hospital; CGMH)で研修して参りましたのでご報告いたします。千葉大学と台湾との交流は今回が3回目となります。本年度は脊椎外科研修として海村朋孝先生(H25)が、関節外科研修として私が参加して参りました。

1週目(10.28-11.1) CGMH

 CGMHは病床数が約3,000床、手術室数が約120室、整形外科年間手術件数が約12,000件もある巨大総合病院です。Joint reconstruction divisionには11人のProfessor/Attending Dr.と10人前後のFellow/Resident Dr.が在籍し、人工関節手術は平均20件/日行われ、うち3-4件は再置換術でした。Primary THAは側方アプローチ(Anterolateralと表現していたが中小殿筋を剥がしていた)のセメントレスインプラント、Primary TKAは傍正中アプローチのPSセメント、RevisionはCase by caseでした。特筆すべきはその手術時間の短さで、Primary THA 30分、Primary TKA 45分、Revision TKAも2時間前後で終わらせていました。このぐらいのペースで出来ないと予定手術が日中のうちに終わらないそうです。昨年来葉されたDr. Linを始め、私と同世代の先生方がRevision THA/TKAを手際よく終えるその姿には非常に感銘を受けました。またRevisionの原因として感染や骨粗鬆症に付随する術後早期の骨折が多い点が印象的でした。

 

2週目(11.4-11.8) NTUH

 NTUHは病床数で約2,000床、整形外科年間手術件数が約5,000件と、こちらも日本ではなかなかない規模の病院です。整形外科医師はProfessor/Attendingが総勢40名以上も在籍し、それと同数程度のFellow/Residentとともに、脊椎、関節、外傷、小児、腫瘍とほぼ全ての整形外科領域を網羅する体制となっています。関節外科手術は週にそれぞれTHA 10件前後、TKA 20件前後、UKA 5件前後、その他高位脛骨骨切り術や遠位大腿骨骨切り術を数件とのことでした。Primary THAは後方アプローチのセメントレスインプラント、Primary TKAはMIS sub-vastusアプローチのPSセメントで行われ、皆いずれも慣れた様子で手際よく手術を行っていたのが印象的でした。特にPrimary/Revision THAを数多く手がけるDr. Wangとの股関節アプローチに関する昨今の話題や寛骨臼巨大骨欠損に対する再建方法の違いなどについてのDiscussionは、経験に裏打ちされた非常に深い意見が聞けて大変有意義でした。

 

余暇

 週末やアフター5には台湾の食事、文化を堪能することが出来ました。日本でも有名な小籠包、タピオカティー(珍珠奶茶)、マンゴーかき氷を始め、魯肉飯、牛肉麺、排骨飯などは安くて美味しいのでおすすめです。夜市は噂通り非常に賑やかで、時折漂う臭豆腐の強烈な匂いが印象的でした(味は美味しい)。晴天だった週末には台北101に行き、地上89階からの絶景を一望しました。また温泉に入れると聞いたので地下鉄(Mass Rapid Transit; MRT)とバスを乗り継ぎ行義路温泉まで足を運びましたが、日本的な作りと山間景色を堪能出来て貴重な経験となりました(お湯は熱め)。

 

その他気づいたこと、印象的だった点

 CGMH、NTUHいずれのDr.も臨床、研究両分野において非常に優秀です。皆英会話を学び、諸外国のDr.と積極的に交流して自身の知見を向上させようとする意志を強く感じました。Residentやfellowの多くがAAOSやISSLSなど国際学会での発表を経験しております。我々ももっと頑張らないといけないと思います。ただお互い英語を母国語としていない者同士であり、論文執筆などに関する苦労など共感できる話も数多く耳にしました。

 保険制度の違いによる医療情勢も印象的でした。台湾ではTHAの摺動面選択において、セラミックが自費になります(セラミックonポリエチレンでヘッド分、セラミックonセラミックで両方とも)。TKAではクロスリンクポリエチレンが自費です。インプラントも患者負担に応じて制限があり、医師の裁量が効かない不自由さはあるようです。また保険ではCTかMRIのどちらか一方しか賄われず、両方行う場合は片方自費だそうです。日本の社会保障費増加率を見ると、いずれは本邦でも同様の制約が加わるかもしれません。

 当然のことながら、英語で自分の考えや意見、疑問点などを伝えられると非常に多くの知見が得られ、海外研修が充実します。台湾Dr.たちは英語のPresentationやDiscussionが上手でしたが、これは今まで何度も経験してきたからだよ、とのことでした。英語教育が早期(小学校低学年)から行われているためかと思っていたのですが、彼ら彼女らに言わせると、学校の勉強だけで話せるようになることはまずなく(実際台湾の若年者の大半は喋れないそう)、幼少期から今日まで必要に駆られて勉強する、練習する人ができるようになるだけ、だそうです。英語上達の道は結局どれだけ英語が必要な状況に身を置くか、なのかなと思います。

 最後になりましたが、このような貴重な機会を与えてくださった大鳥教授、葉國璽先生、日頃からご指導頂いております中村先生、萩原先生、留守中に多大なるご迷惑とご協力いただきましたリウマチ股関節グループ大学院生をはじめとする大学病院諸先生方、関係者の方々に心より感謝申し上げます。ありがとうございました。

 

 

海村 朋孝 (H25卒)

 

 この度、2019年10月28日~11月8日にTraveling fellowshipとして台湾の林口長庚紀念醫院(Chang Gung Memorial Hospital)と国立台湾大学醫学院付設醫院(National Taiwan University Hospital)にて研修に参加させていただきました。この研修は葉國璽先生(H5)の御発案、御尽力により毎年行われており、今回で3回目となります。今回、リウマチ股関節グループの吉野謙輔先生(H21)と一緒に研修させていただきました。

 

 初めの1週間は桃園市にあります、林口長庚紀念醫院にて勉強させていただきました。この長庚紀念醫院は多くの関連施設を持つ、アジアでも有数の医療グループであります。特に林口長庚紀念醫院には広大な施設内に整形外科だけでも250床ほどのキャパシティがあり、手術室も10部屋以上で同時に手術を行うことができるとのことで驚愕しました。

 脊椎手術だけに限っても、行われている手術は定型的なものが多い印象でしたが、その分医療スタッフ全体の練度が高く、すさまじい速さで進められていくのにただ驚いていました。日本との違いは主に保険によるもので、使えるインプラントが、ひいては手術の選択肢が限られているとのことでした。しかし各医師によって得意とする手技が異なり、脊椎内視鏡手術をメインに行う先生も顕微鏡下での手術を行う先生もお互いを尊重している様子が見られました。

 カンファレンスでは自験例をケースプレゼンテーションさせていただいたのですが、主に質疑応答で自身の英語力のなさを実感するとともに、こちらのつたない英語を理解しようとしてくださる台湾の先生方の英語力の高さには舌を巻く思いでした。逆に脊椎内視鏡手術の症例に関して意見を求められたときには、内視鏡手術に関してなじみがなかったことと英語が出てこないこととで歯がゆい思いをしました。千葉大学病院で普段見ることのできない手術に触れることができ、誠に刺激となりました。

 今年は病院宿舎が改修中とのことでしたので近隣のホテルに宿泊したのですが、来年以降は改修後の宿舎が利用できるとのことで、ますます良い研修ができるのではないかと思われます。それでなくとも病院施設内に様々な飲食店や日用品店、銀行などがあり、地下鉄の駅にも直通しているなど、利便性の高さも素晴らしいものでした。

 

 2週目は台北の国立台湾大学醫学院付設醫院にて研修させていただきました。こちらも大病院で、旧棟では外来診療、新棟では入院、手術をメインに行っており、さらに小児病棟や他の施設も併設していました。

 林口長庚紀念醫院とは違い、大学病院ならではの難しい症例などがカンファレンスの議題であがり、実際にそれに対する手術も術中イメージングにO-armやナビゲーションシステムを用いているところを見学することができました。

 また、手術の適応や同様の症例に対しても選択する術式などが林口長庚紀念醫院とは異なっており、改めて新鮮な思いで研修することができました。

 大学病院にもかかわらず救急外来にはひっきりなしに患者が受診しており、廊下に患者やストレッチャーがあふれているような場面もありました。整形外科医も救急外来に常駐する必要があるとのことでした。重症の外傷例が来ているところも確認でき、各専門家が高度な医療を行う一方で、外傷に関しては専門領域を問わず精力的に治療に携わっている様子を見て、頭が下がる思いでした。

 台湾では人口と同じほどの数のバイクが流通しているとの話もあり、道路を見れば車とバイクであふれているような状況で、交通事故も多く外傷も相当な数が運び込まれているのだそうです。

 

 両方の病院で共通していましたのは、保険の関係で脊椎の慢性疾患の術前にはCTとMRIのどちらかしかできないとのことでした。だいたいの場合は単純X線写真とMRIのみしか画像の情報がなく、その分、各医師の単純X線画像1枚に対する読影能力が研ぎ澄まされていると感じました。

 どちらの病院でも勤務されている先生方や医療関係者の方々の熱意と体力に圧倒されておりました。患者層や手術手技、疾患への考え方などは異なるところがありますが、今回学ばせていただいたことは大きな経験として、今後の日常診療に役立てていきたいと存じます。

 また、海外への旅行経験自体が乏しかった自分には、誠に良い経験となりました。英会話の重要さ、他国の医療事情などについてこれほど真剣に考えたことはこれまでなかったように思います。ただし、台湾では案外日本語も通じました。

 昨年までに千葉大学にFellow shipなどで研修に来てくださっていた知り合いの先生や、個人的に日本に行ったことのあるという方も多くいらっしゃり、さらに交流を深めていくのが楽しみにもなりました。皆様大変におもてなししてくださり、交換で千葉にいらっしゃる先生方にも何か恩返しができればと考えております。

 

 最後になりますが、本留学への参加を後押ししてくださいました大鳥精司教授ならびに脊椎グループの先生方、医局の先生方、御尽力頂きました葉國璽先生にこの場をかりて深く御礼申し上げます。

 

  • 写真1 CGMHでの懇親会の集合写真
  • 写真2 CGMH(林口長庚紀念醫院)外観
  • 写真3 NTUH(国立台湾大学醫学院付設醫院)新館外観