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AO Spine Asia Pacific Fellowship 留学記

更新日 2023.7.12

H28年卒
丸山隼太郎

2023年6月5日から7月2日までの期間、AO Spine Asia Pacific Fellowshipの一環として、シンガポールのNational University Hospital (NUH)での留学を経験したことを報告いたします。

 

今回の機会は、AO Spine facultyの古矢丈雄先生に勧めていただいたものです。一度留学を経験したいと以前から考えていたため申し込んだところ、幸運にも採択いただきました。アジアでも先進的な医療が実践されている、そして私がこれまでに訪れたことのない国であるシンガポールのNUHを選択し、Professor Gabrielの指導を受ける機会に恵まれました。

 

シンガポールは、東京から直行便で約7時間の距離にあります。多様な民族が集まる国で、英語が共通語として使用されていますが、Shinglishと言われる独特の訛りがあります。英語が得意でない私にとって言語はコミュニケーションの障壁となりましたが、私に対して話す際にはゆっくりと話してくれたため概ね理解できました。シンガポールは赤道に近い位置にあるため、年間を通して平均気温が30度という熱帯気候の地域で外を歩く際は常に汗だくになりましたが、バスと地下鉄などの公共交通機関が発達しておりこれらを活用することでシンガポール全土に観光することもできました。

 

NUHはシンガポールで唯一の国立大学病院です。約10棟のビル群から成る巨大な施設で、病床数は約1000床あります。初日に病院の案内を受けた際には、それぞれ15室程度ある手術室が3箇所もあることに驚きました。毎日朝8時過ぎに手術室に行き、手術の見学をさせていただきました。ほとんどの手術では手洗いをさせて頂き、時には一部手を出させていただけることもありました。

4週間の滞在中では、22件の手術に参加しました。側湾症の手術が8件、椎弓形成術が5件、頚椎人工椎間板手術が1件などありました。

今回の留学期間は学生たちの長期休暇期間に当たったため、小児の特発性側湾症の手術を多く見学しました。多くの症例では椎間関節部分切除をしてロッドで矯正していく術式で、側弯の手術をほとんど見たことがなかった私にとって非常に勉強になりました。

術中はヒートアップする先生が多かったですが、見学生の私には丁寧に手技の意味や方法を解説してくれました。

また日本からの留学ということもあり、多くの椎弓形成手術に呼んでいただけました。片開き式の椎弓形成術で、全ての症例にプレートを使用していました。時にはOPLLや後弯を伴う頚髄症に対する術式選択で日本ならどうすると問われ、日本代表として議論に参加しました。

手術の他の特徴として、脊椎手術のほぼ全ての症例で神経生理学的モニタリングを行っていました。運動誘発電位(MEP)、感覚誘発電位(SEP)、そして筋電図(EMG)を常にモニタリングしており、非常に有効に活用されていました。検査技師は緊急手術でも24時間対応する体制となっており印象的でした。

 

シンガポールの医療保障制度は世界でも高い評価を得ており、医療ランキングではアジアだけでなく、世界でもトップクラスの常連である一方で、国民の医療費負担は日本と比較して低く抑えられています。このシステムは、政府による強制積立金制度と、高所得者に高品質な医療サービスを高額で提供することによる収益が、医療費の負担軽減や低所得者への支援に役立っているためで、日本の直面する問題にも直結するもので大変興味深いものでした。

 

この留学期間中、忙しい教授陣に何度も食事に誘っていただけました。Professor Nareshはご自宅に招待してくださり、本格的なインド料理を提供してくれました。本場のカレーやビリヤニの美味しさに興奮し食べ過ぎてしまった結果、翌日にはスパイスの効果か、見事にお腹を壊しました。また、私の両親が観光に来ることを伝えるとProfessor Wongは両親を含めて地元のチリクラブの店に招待してくれました。とても緊張しましたが、価値のある経験となりました。最終週には、脊椎チーム全員でのfarewell partyを開催してくださり、チリクラブの店で地元料理を楽しむことができました。

 

この留学経験は私の専門的なスキルと視野を広げ、多くの尊敬すべき専門家との交流の機会を与えてくれました。このような経験を積むことは、今後の整形外科医、脊椎外科医としてのキャリアに大いに役立つと確信しています。

 

最後に、今回のプログラムでご指導くださったNUHの先生・AO Spine事務局の方に深謝致します。また、本プログラムへの参加を快諾いただいた大鳥精司教授、古矢丈雄先生、牧聡先生、頚椎脊髄班大学院生にも深謝致します。

 

Professor Naresh先生宅で本格インド料理を食べました。

 

Professor Wongと家族で食事しました。

 

最終週に脊椎班全員でFarewell partyを開催してくれました。