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第34回 PyeongChang Olympic 2018 ポリクリニック見学報告 -赤木 龍一郎

更新日 2018.6.25

千葉大学病院整形外科 
赤木 龍一郎

少し旬を逃してしまいましたが、2018年2月12日〜17日の日程でInternational Olympic Committee (IOC) Diploma in Sports Medicineのプログラムを利用して、平昌(PyeongChang、ピョンチャン)オリンピック・パラリンピックの選手村内にある医療施設(ポリクリニック)の見学をしてきましたのでご報告します。平昌オリンピック・パラリンピックの競技会場は主に山間部でスキーやスノーボードなどの種目が行われる平昌と、主にスケートやアイスホッケー、カーリングなどの種目が行われる江陵(Guangneung、カンヌン)があり、私は江陵の選手村に配属されました。

 

選手村とは文字通り選手が宿泊・生活する村のことで平昌と江陵に作られており、それぞれの選手村にポリクリニックが設置されていました。ポリクリニックの役割は選手やスタッフに発生する競技・練習中の外傷や滞在中の疾病に加え、ボランティアの診療も行うことです。平昌の方が少し規模が大きいという違いはありますが、設備としてはほぼ同様で内科、整形外科、リハビリテーション科、眼科、歯科、耳鼻咽喉科、婦人科、精神神経科、の診察室と救急治療室、理学療法室、鍼治療室、薬局があり、単純X線や超音波検査、血液・生化学検査の検査もできるように整備されていました。また、様々な装具やサポーターが用意されているだけでなく、オーダーメイドのインソールやマウスピースも型取りをして1−3日中に作成できるようになっていました。

 

今回のオリンピック・パラリンピックにおけるポリクリニックは経費削減のため仮設テント型の設備で、IOCとKOC(韓国オリンピック委員会)の協力のもと、主にソウル大学からの医師派遣を受けて運営していました。軽い外傷や疾病の対応をするための施設としては十分と思われましたが、以前のロンドンやリオの際には設置されていたMRIなどの検査機器が今回は設置されていなかったことなどもあり、各国の選手団にとって利用価値が少ないという批判もあったようです。様々な国の選手が受診していましたが、ボランティアスタッフ、韓国選手やOAR(ロシアからの選手団)選手の受診が多い印象でした。非常に興味深かったのが、必ずしも競技・練習中のトラブルだけでなく眼科や歯科においてコンタクトレンズや眼鏡の作成、虫歯の治療などの需要が非常に高いということでした。また、滞在中に一度強風のためにテントが破損してポリクリニックが一時閉鎖、スタッフを皆避難させるという事件もあり、大変思い出に残りました。

 

選手村以外の面では、特に海外からのボランティアスタッフの待遇や現地での交通整備が一つの課題だと感じました。仁川国際空港から江陵までを接続するKTXという高速鉄道は非常に快適で便利でしたが、現地での移動に用いていたボランティア用のバスは運行便数が少なく、また乗り継ぎの連絡が非常に悪いこと、案内表示がすべてハングルのみで英語表記もないことなどから大変苦労しました。シフトに合わせて決まった場所を往復する上ではなんとかなるのですが、氷点下の寒空でバスを待つのはなかなか大変でした。海外、特に欧米からのボランティアは用意される食事が常に韓国料理ばかりだということでも苦労している人がいるようでした。

 

今回の視察ではオリンピック・パラリンピックの裏方として働くボランティアの様子や、ポリクリニックの運営の様子を見せてもらい、また日本選手団のメディカルルームを見学させていただくこともでき、非常にいい経験ができました。また、IOCが行っていた各国メディカルスタッフ向けのレクチャーやシンポジウムも冬季オリンピックに特化した内容でとても興味深く、勉強になりました。2020年の東京オリンピックに向けて千葉県、千葉大学として準備をする上でこの経験を少しでも活用できればと思っています。このような有意義な研修に行くことを許可してくださった佐粧教授、大鳥教授はじめ不在中のサポートをしてくださったスポーツグループ、医局の皆様にはこの場をお借りして心より感謝申し上げます。